7-4 安全のため高速炉燃料の運転中のふるまいを把握

−燃料中の酸素割合による燃料形状・最高温度への影響−

図7-9 中心空孔形成のメカニズム

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図7-9 中心空孔形成のメカニズム

(a)製造時に存在する燃料ペレットの気孔は、原子炉で照射されると高温側からUO3等が蒸発し、低温側に凝縮します。(b)これを繰り返すことで、気孔が燃料中心部に移動し、中心空孔を形成します。

 

図7-10 O/M比による中心空孔径の違いと解析結果

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図7-10 O/M比による中心空孔径の違いと解析結果

(a)O/M比2.00の試料は、O/M比1.96、1.98よりも中心空孔径が大きくなっていました。(b)解析の結果、O/M比2.00の試料は、O/M比1.96、1.98よりも燃料中心温度が200 ℃程度低くなっていましたが、蒸気圧が高いことが分かりました。

 


高速炉燃料は安全確保のため、原子炉の運転中、燃料溶融を防止するよう、最高温度を融点以下に設計することが求められます。酸化物燃料(MOX燃料)の温度評価においては、燃料中の酸素(O)と金属(ウラン:U、プルトニウム:Pu等)の原子数比(O/M比)が、燃料の物性・照射挙動を通じて大きな影響を与えることが知られています。また、私たちは、高レベル放射性廃棄物の減容・有害度低減に向け、マイナーアクチノイド(MA)を含有した燃料の開発も実施しており、MA含有燃料への影響の把握も重要です。そこで、高速実験炉「常陽」でO/M比をパラメータとしたMA含有燃料の短時間照射試験を行い、温度評価の予測精度の向上に資するためO/M比の影響の把握を行いました。

燃料温度に大きく影響する照射挙動として、照射開始直後の中心空孔形成による燃料形状や密度の変化挙動が重要です。これは、図7-9に示すように、製造時に燃料ペレット中に含まれた気孔が、内面の燃料物質(UO3等)が高温側で蒸発→低温側で凝縮を繰り返し、燃料中心部に移動・集中し形成されるもので、中心空孔が大きいほど伝熱距離が短縮するとともに密度も増加するので、燃料中心温度を大きく低下させる効果があります。

今回の照射試験では、図7-10に示すように、中心空孔径のO/M比の依存性が見られました。この図に示すように、O/M比2.00の試料は1.96、1.98のものと比べて、中心空孔径が大きい結果でした。一般的にO/M比が2.00に近い方が熱伝導度は大きく温度は低下するため、中心空孔径は小さくなると考えられますが、今回得られた結果は、逆の傾向でした。O/M比が2.00近傍では、酸素ポテンシャルが高くなることが知られています。酸素ポテンシャルの増加は、蒸気圧を高めるため、私たちは、この現象が、O/M比による燃料の蒸気圧の違いによると考え、最新の知見に基づきO/M比と蒸気圧の関係を整備し、新たな気孔移動モデルを構築しました。また、アメリシウム(Am)などMAの添加も蒸気圧に影響を与えるため、気孔中の蒸気種としてMAも取り入れました。このモデルによる評価の結果、図7-10のとおり、O/M比2.00の試料は1.96、1.98よりも燃料中心温度が200 ℃程度低く評価されましたが、蒸気圧は高く、その結果として、中心空孔が大きくなることを適切に模擬できることが分かりました。

このように、O/M比による蒸気圧への影響を取り入れることで、照射初期の燃料形状変化を適切に模擬でき、燃料温度の予測精度を向上できました。MA含有燃料の照射実績は国内外で少なく、今回、MAを考慮した気孔移動モデルを照射試験で確認できたことは貴重な成果です。MA含有燃料の照射挙動の把握に向けて、今後、長期間の定常照射を含む各種照射試験を実施することが期待されており、今回の成果は照射挙動の予測、安全確保に大いに貢献するものです。