7-5 高速炉の性能維持のためにどんな検査が必要か

−高速炉に適した供用期間中検査の設定手法の開発と規格化−

図7-11 供用期間中検査の設定フロー

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図7-11 供用期間中検査の設定フロー

機器の信頼性及び発電所の安全性に着目した2段階の評価を行い、高速炉に適した検査内容を設定します。

 

図7-12 提案手法の国際標準化プロセス

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図7-12 提案手法の国際標準化プロセス

原子力機構の知見や成果に基づき提案した供用期間中検査の設定手法は、世界的な規格策定団体であるASMEで規格化されるとともに、現在、炉型を問わず適用可能な基本コンセプトとして、他の炉型への展開が図られています。

 


国内の原子力発電所では、日本機械学会(JSME)が策定する維持規格に基づき供用期間中検査が実施され、運転中に必要な性能が維持されています。しかし、この規格の対象は軽水炉のみであり、高速炉で実施すべき供用期間中検査を定めた維持規格はありませんでした。海外に目を向けても、米国機械学会(ASME)に、高速炉への適用を想定した液体金属炉用維持規格があるものの、未完のまま30年以上改定されておらず、使用不可能な状態でした。維持規格は、運転中の性能維持のためにはもちろん、設計開発段階においても、検査のためのアクセス性等を考慮した設計を実現するために非常に重要です。

そこで私たちは、高速炉に適した供用期間中検査の設定手法を、システム化規格概念に基づき開発することにしました。ここで、システム化規格概念とは、まず、信頼性(破損しない確率)に対する目標値(目標信頼性)を定め、次にそれを達成するために必要な設計や維持に対する要求を規定することにより、機器の信頼性を合理的に確保することを目指した我が国発案の概念です。

図7-11に、提案した供用期間中検査の設定フローを示します。Stage IとIIの2段階から構成されます。Stage Iでは、機器の信頼性に着目します。材料や使用環境等の条件から、機器にどんな劣化が懸念されるかを考え、信頼性を評価します。信頼性が目標値を満足する場合、Stage IIに進みます。Stage IIでは、プラントの安全性に着目します。亀裂等を安全性に影響が生じる前に検出可能か評価し、可能な場合、その検出方法を供用期間中検査に採用します。検出が不可能な場合には、十分に保守的な追加条件を課した上で、信頼性評価を再度実施し、信頼性が目標値を満足すれば、供用期間中検査の要求を不要とします。このように私たちの設定フローでは、機器の安全上の重要性や、材料や環境、検査性等を考慮して、高速炉に適した供用期間中検査を設定することができます。

提案フローに基づき、高速増殖原型炉「もんじゅ」のガードベッセルと炉心支持構造物を例題にして、供用期間中検査の内容を検討しました。Stage Iでは、懸念される劣化事象として、ガードベッセルについてはクリープ疲労、炉心支持構造物については疲労を抽出し、信頼性評価の結果、目標信頼性を満足することを確認しました。Stage IIでは、いずれの機器も検査が困難なことから、板の厚みの10 %という深い亀裂が全周にわたって存在するという非常に保守的な追加条件での信頼性評価を実施し、目標信頼性を上回ることを確認しました。以上の検討から、ガードベッセルと炉心支持構造物については、目標信頼性に対して十分信頼性が高く、供用期間中検査の要求は不要と判定しました。

本研究を含む高速炉に適した供用期間中検査の設定手法の開発に係る成果は、ASMEでの液体金属炉用維持規格の検討に用いられ、2017年7月に、高速炉主要機器の供用期間中検査を定めたCode Case N-875として規格化されました。現在、さらに他の炉型への展開が図られています(図7-12)。