8-1 複数施設からの廃棄物の放射能をまとめて評価する

−異なる研究炉の廃棄物に共通的な放射能評価手法の検討−

図8-4 複数施設に共通的なSFの検討フロー

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図8-4 複数施設に共通的なSFの検討フロー

Key核種と難測定核種の放射能濃度に相関関係が成立した場合に、濃度比を施設ごとに分ける必要性を判定することで、複数施設に共通的なSFの適用を検討しました。

 

図8-5 (a)JRR-2とJRR-3の廃棄物における90Srと137Csの放射能濃度の相関図と(b)施設ごとの90Srと137Csの濃度比分布

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図8-5 (a)JRR-2とJRR-3の廃棄物における90Srと137Csの放射能濃度の相関図と(b)施設ごとの90Srと137Csの濃度比分布

JRR-2とJRR-3の廃棄物中の137Csと90Srの放射能濃度は、相関係数は0.97であり、(a)に示す相関図や、有意水準1 %でt検定を行った結果から、相関が確認されました。また、双方の施設の濃度比は、(b)に示す分布の形の違いについて有意水準1 %で分散分析検定(F検定)を行った結果、まとめて扱うことは妥当と判定されました。この結果、(a)に示すように共通のSFが適用できました。

 


私たちは、研究機関や医療機関等から発生する低レベル放射性廃棄物の埋設処分を計画しています。この廃棄物を埋設処分する際には、放射性物質の種類(核種)ごとの放射能濃度(濃度)が、処分場に受入れ可能な濃度よりも低いことを確認する必要があります。しかし、個々の廃棄物から試料を採取し核種ごとの濃度を定量することは、費用も時間もかかるため、合理的な放射能評価方法を構築する必要があります。

このため、これまでは研究炉から発生する廃棄物の放射能評価方法の構築に向けて、単一の研究炉を対象として比較的測定が容易なγ線放出核種(Key核種)と難測定核種の平均的な濃度比(スケーリングファクタ:SF)を利用して評価するSF法や、分析で得られた濃度の平均値で評価する平均放射能濃度法の適用性を確認してきました。しかし、研究炉は様々な規模の原子炉があるため、単一の施設ごとにSF法等を構築していくことは非合理的です。

そこで、原子力機構にある研究炉JRR-2とJRR-3において、双方の施設に共通的なSF法の検討を行いました。JRR-2とJRR-3は、燃料や運転履歴は異なるものの、同じ重水減速冷却型の原子炉であり、核種生成機構及び廃棄物への核種の移行挙動が類似しています。これらの金属廃棄物について、Key核種である60Co及び137Csとともに、難測定核種である90Sr等の19核種を分析し、得られた濃度を用いて検討を行いました。

図8-4に示す検討フローに従い、JRR-2とJRR-3双方のKey核種と難測定核種の濃度の相関関係について、図8-5(a)に示す相関図や統計的な手法(t検定)により判定しました。相関関係があると確認されたKey核種と難測定核種の濃度比をJRR-2とJRR-3に分け、図8-5(b)に示す濃度比分布の形の違いから施設ごとに分けて扱うことの必要性を判定する分散分析検定(F検定)を行いました。分ける必要がないと判定されれば、双方の施設の濃度比をまとめてSF値を評価することは妥当と考えます。

本検討の結果、137Csと90Srでは濃度の相関係数は0.97であり、かつ有意水準1 %のt検定で相関ありと判定されるとともに、有意水準1 %のF検定では濃度比をまとめて扱うことは妥当との判定になりました。60Coと63Ni及び152Eu、137Csと239Pu+240Puについても同様の結果が得られ、計5種類の難測定核種についてJRR-2とJRR-3に共通のSFが適用できる結果が得られました。

一方、共通的なSFが適用できなかった14種類の難測定核種については、分析データ数を増やした後の相関性再評価、単一の施設ごとのSF設定、平均放射能濃度法の適用性確認等の方法を検討しています。

今後は、本検討手順を雛形として、他の施設から発生した廃棄物の分析データを蓄積し、共通的な放射能評価方法の適用範囲の拡大や信頼性の向上を図ります。