8-2 地下水に含まれる希土類元素の極微量分析

−地下の酸化還元環境推定を目的としたオンサイト固相抽出法の構築−

図 8-6 希土類元素の分析手法の概略及びオンサイト固層抽出法により採取した地下水試料中の希土類元素の測定結果

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図8-6 希土類元素の分析手法の概略及びオンサイト固層抽出法により採取した地下水試料中の希土類元素の測定結果

(a)は分析手法の概略です。回収した元素は実験室に持ち帰り、誘導結合プラズマ質量分析計により測定しました。本研究ではキレート樹脂による試料の前処理方法の改善を実施しました。(b)はオンサイト固層抽出法による地下水試料中の希土類元素の測定結果です。同地点から連続的に採取した2試料の測定結果がそれぞれ良く一致しており、本手法の再現性についても確認できました。実験室で同一試料の繰り返し分析も実施しており再現性を確認しています。本研究により地下水試料中の極微量(0.1 ng/L以下)の希土類元素分析に成功しました。

 

図 8-7 オンサイト固相抽出法による地下水試料中の希土類元素の測定結果

図8-7 オンサイト固相抽出法による地下水試料中の希土類元素の測定結果

(a)は岐阜県、(b)は山梨県で採取したオンサイト固層抽出法による地下水試料中の希土類元素の測定結果です。実際の環境解析では図のように地下水試料に含まれる希土類元素存在比の規格化された分布パターンで結果が示されます。(b)では酸化還元環境の変遷を反映していると思われるユーロピウム(Eu)の負の異常(相対的に低い値)が認められます。

 


地下深部での酸化還元環境やpH等の化学的環境に関する情報は、高レベル放射性廃棄物の地層処分に必要な地下深部の地質環境の予測・評価において重要です。これまでに、地下水中の鉄等の化学組成の分析から、地下深部での酸化還元電位の復元が検討されてきました。加えて、地下水試料等に含まれる微量のセリウム(Ce)等の希土類元素の分布を明らかにすることにより、物質の供給源や酸化還元環境の変遷に関する情報を得ることができると考えられています。しかし、希土類元素の存在量は非常に少ないため、分析値が得られないケースが多くあります。さらに、海水の影響を受けた地下水試料では他成分の影響により、誘導結合プラズマ質量分析計による希土類元素の分析は妨害され、データの取得が困難となります。

一方、エチレンジアミン四酢酸塩–イミノ二酢酸型のキレート樹脂(株式会社日立ハイテクフィールディング製)は妨害元素となるバリウム(Ba)等を除去可能であり、これまでに天然試料中の希土類元素分析に用いられてきました。しかし、このキレート樹脂は海水試料への適用例が主流であり、河川や地下水試料での研究例はほとんどありません。また、地下水では多くの試料でろ過後にも沈殿が認められることから、試料の変質による分析値への影響が懸念されます。したがって、採水直後に目的成分を分離・濃縮することが有効です。しかし、地下水の採水現場(オンサイト)でのキレート樹脂による固相抽出はこれまでに報告例がありません。

本研究では標準試料及び天然試料を用いて、目的元素の回収率や再現性等を確認し、キレート樹脂の適用性を詳細に評価しました。混合標準試料のキレート濃縮試験(100 mLの試料を10 mLに濃縮)では、希土類元素で約90 %以上の回収率を得ることができました。また、妨害元素であるBa等を99 %以上除去することができました。さらに、天然試料を用いて再現性の確認及び従来法との比較試験を実施し、オンサイト固相抽出法による地下水試料中の極微量の希土類元素分析の実用化につなげることができました(図8-6、図8-7)。採水現場でキレート樹脂を使用することにより、地下水中の希土類元素分析を効率良く実施できると考えられます。今後はオンサイトでの大量濃縮を検討しており、作業時の試料汚染の低減や回収率を向上させていくことが重要です。

本報告は、経済産業省資源エネルギー庁の「地層処分技術調査等事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」の成果の一部です。