図8-13 バイオフィルムの走査型電子顕微鏡観察像と化学成分分析結果
図8-14 バイオフィルムの見かけの生物濃縮係数
地下深くの環境中には、多くの微生物が生存していることが明らかになっています。自然界には浮遊性微生物と付着性微生物が存在しており、基質に付着した微生物は細胞外多糖を分泌して生物膜(バイオフィルム)を構成します。地下環境においても微生物はバイオフィルムの形態で生息すると考えられていますが、その存在量や代謝機能、金属元素との相互作用については十分理解されていません。地下にバイオフィルムが形成されている場合、放射性廃棄物の地層処分において、廃棄体から放出した核種を細胞表面に収着したり、細胞内に濃集・鉱物化、あるいは核種の形態を変化させることにより、核種の移行を促進または遅延させるなどの影響を及ぼす可能性があります。したがって、地層処分システムにおいてバイオフィルムがどのような影響をもたらすのかを評価する必要があります。
私たちは、東濃ウラン鉱床周辺の地下環境に分布する花崗岩及び堆積岩中の地下水環境下においてバイオフィルムが形成されていることを確認しました(図8-13)。そこで、これらのバイオフィルムを対象として、地下水及びバイオフィルム中の微生物密度、種組成について、蛍光顕微鏡を用いた直接観察法や遺伝子解析手法を用いた調査を行いました。また、それぞれの試料に含まれる微量元素濃度を分析し、地下水中の金属元素濃度とバイオフィルム中の金属元素濃度の比から生物濃縮係数を算出するとともに、鉱物学的特性に関する考察を行いました。
その結果、バイオフィルム中の微生物群集組成は、地下水のものと比べて多様性が低く、堆積岩ではメタンを栄養源とする微生物(Methylobacillus flagellatusに近縁な種)、花崗岩では有機物を栄養源とする従属栄養性微生物(Ignavibaterium albumに近縁な種)が全体構成の約80 %程度を占めていることが示されました。また、バイオフィルム中の微量元素濃度を分析した結果、クロム:Cr、鉄:Fe、ニッケル:Ni、銅:Cu、亜鉛:Zn、鉛:Pb、トリウム:Thなどの元素が高濃度で濃集されており、堆積岩環境下で形成されたバイオフィルムと花崗岩環境下のものでは、バイオフィルムへの元素収着特性が異なることが明らかになりました(図8-14)。バイオフィルム及び地下水の化学組成や酸化還元状態に基づく地球化学計算結果から、堆積岩バイオフィルム中では主に水酸化鉄、花崗岩バイオフィルムでは硫化鉱物が形成され、それらの鉱物も金属元素の濃集に寄与している可能性が示されました。
本研究成果は、バイオフィルムが重元素と相互作用することで、地層処分システムにおける放射性核種の移行において遅延効果をもたらす可能性を示唆しています。