8-6 割れ目を持つ泥岩中の物質移行経路を探る

−溶存ガスに飽和した地下水中でのトレーサー試験手法の確立−

図8-15 試験レイアウト

図8-15 試験レイアウト

各試験孔は坑道壁面からほぼ水平方向に3 m程度掘削しています。は予備試験、はトレーサー試験における水の流れの方向を示しています。

 

図8-16 試験条件と脱ガスの発生との関係

拡大図(54kB)

図8-16 試験条件と脱ガスの発生との関係

(a)の条件では、脱ガスに起因する揚水孔の流量データの乱れが生じているのに対し、(b)の条件では、脱ガスの発生が抑制されていることから、脱ガスを抑制するには「注水流量>揚水流量」の条件が適しています。

 

図8-17 試験条件とトレーサー回収率の関係

図8-17 試験条件とトレーサー回収率の関係

「注水流量>揚水流量」の場合(1P-6、1P-7)は破過曲線に複数のピークが生じていることから、トレーサーが相対的に多くの経路をたどって移行しているため、「注水流量<揚水流量」の場合(1P–2)と比べてトレーサー回収率が低くなる傾向にあります。したがって、トレーサー回収率を高くするには「注水流量<揚水流量」の条件が適しています。

 


原位置トレーサー試験は、岩盤中の物質移行挙動を原位置の環境下(地下水の流動状態や地下水水質)で直接測定できるメリットがあります。しかし、堆積岩においては、岩盤中の割れ目を対象とした原位置トレーサー試験は、国内外を含めて適用事例が非常に少ないのが現状です。そのため、地層処分における堆積岩の岩盤中の物質移行メカニズムを把握するための調査や解析上必要なデータの取得には、堆積岩中の割れ目を対象とした原位置トレーサー試験手法の確立が重要となります。

幌延深地層研究センターの深度350 m調査坑道に分布する泥岩中の地下水には、被圧状態でメタンや二酸化炭素が多量に溶存しており、圧力の解放に伴ってこれらの溶存ガスが脱ガスすることが分かっています。このため、間隙水圧を変化させて行うトレーサー試験においては、脱ガスによって移行経路内が不飽和状態になることを抑制することが必要です。また、トレーサー試験の品質を確保するためには、トレーサー回収率を可能な限り高くすることも重要となります。そこで、試験条件として注水流量と揚水流量を変化させ、原位置トレーサー試験を行うとともに、トレーサーを用いずに水のみで注水・揚水を行う予備試験を行い、これらの結果に基づき、試験条件(注水流量及び揚水流量)が脱ガスの発生やトレーサー回収率に与える影響を評価しました。試験孔のレイアウトを図8-15に示します。

予備試験結果から、揚水流量()を注水流量()より大きく設定した場合には、流量計の計測部に気泡が混入することに起因して、経過時間に対して脱ガスの影響と考えられる流量の乱れが確認できます(図8-16(a))。逆に、注水流量を揚水流量より大きく設定した場合には、経過時間に対しておおむね安定した流量が保持されていることが確認できます(図8-16(b))。したがって、脱ガスの発生を抑制するためには、注水流量を揚水流量より大きく設定することが必要であることが分かります。一方で、ウラニン(非収着性)を用いたトレーサー試験結果から、揚水流量を注水流量より大きく設定した場合(1P-2)は注水流量を揚水流量より大きく設定した場合(1P-6、1P-7)に比べ、トレーサー回収率が高くなる傾向にあることが分かります(図8-17)。特に1P-6や1P-7は破過曲線に複数のピークが現れており、トレーサーが相対的に多くの経路をたどって移行しているためにトレーサー回収率が低くなったと考えられます。したがって、脱ガスの発生を抑制しつつ高いトレーサー回収率を達成するには、注水流量が揚水流量よりも大きい条件で、可能な限り揚水量を大きく設定することが試験条件として最も適していると言えます。

今回の検討結果から、溶存ガスが飽和した地下水が流れる岩盤中の割れ目を対象に、間隙水圧の変化を伴う原位置トレーサー試験を実施する場合において、脱ガスの影響を抑制しつつ、高品質の試験データを取得するための手法を確立することができました。



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