8-9 放射性物質のガラス固化技術

−適切なガラス媒体の探求−

図8-20 ガラス固化技術開発施設のガラス溶融炉

図8-20 ガラス固化技術開発施設のガラス溶融炉

ガラス固化技術開発施設(Tokai Vitrification Facility:TVF)で採用されているガラス溶融炉です。TVFでは高レベル廃液をBSGファイバーカートリッジ(70 mmφ×70 mmL)に含浸させて、溶融炉において直接通電により溶融し、キャニスタ内に流下させる方法である、液体供給式直接通電型セラミックメルター法を用いた固化処理を行っています。

 

図8-21 SiO2-B2O3-Na2O系の液相面投影図

拡大図(511kB)

図8-21 SiO2–B2O3–Na2O系の液相面投影図

私たちが所有している熱力学データベースを用いることにより、ガラスの状態図を作成することができます。この図は、空気中(酸素濃度:20.95 %)におけるSiO2–B2O3–Na2O系の三元系状態図で、液相面投影図と呼ばれているものです。同図を利用することにより、ガラスの組成と液相点との関係について容易に知ることができます。

 


使用済燃料の再処理によって生じる高レベル放射性廃液は、ガラス固化施設において、図8-20の溶融炉で安定なガラス固化体に処理後、最終処分までの間、高レベル放射性廃棄物(High-level radioactive waste:HLW)として貯蔵保管します。ここでガラスとは、非晶質の固体であり、昇温した場合、特定の温度範囲でガラス転移現象(急速に剛性と粘度が低下し流動性が増す現象)を示す紀元前より人類になじみのある物質です。

ガラスは、一般的には割れやすいと考えられていますが、表面に疵がなければ、結晶と同程度の大きな剛性と著しく高い粘性を持っており、理論的には、様々な材料の中で最も強靭な材料の一つとしてみなすことができます。13世紀以前のイスラム帝国では、熱膨張率が低く、耐酸性、硬度及び化学的耐久性に優れた材料としてホウケイ酸塩ガラス(borosilicate glass:BSG)が既に知られていました。しかしながらBSGが商業規模の普及を遂げたのは、19世紀末から行われた光学ガラスの開発成果によります。HLW製造用のガラスは、前述したような特性で、固化媒体として良好な性能を持つBSGが用いられています。

BSGを使用したHLWの製造法は、既に確立された技術ですが、ガラス固化体の発生本数をより削減するために、一部の核分裂生成物を固化前に除去したり、無限にあるガラスの組成を適切に変化させたりすることにより、さらに進んだ固化材料や固化方法の探求をしています。ガラス固化体の性能試験を行うときには、通常、強い放射線を放出する核分裂生成物等をガラスに充てんすることを避け、可能な限り非放射性の模擬試料を用いて、より多くのデータを取得しています。また、ガラス固化工程では、極めて高い温度を使用することになるので理論計算により、ある程度ガラス固化体の熱的挙動を推算した上で試験を行っています。これには熱力学的諸量を必要とするため、これまでは存在しなかった多くのデータを計算科学的手法により取得し、さらにデータベース化することにより、図8-21に示すような三元系状態図の構築も可能にしてきました。

このような研究開発とともに、新たなガラス固化媒体の探索も段階的に実施しており、BSGに代わる材料として、例えば、多様な元素を充てんできる可能性がある鉄リン酸塩ガラスを選択肢の一つとして挙げ、低レベル放射性廃棄物への適用性も踏まえた上で検討を進めています。