図8-19 地表環境中の土砂と放射性物質の動きの評価と生活圏評価との関係の整理例
地層処分の安全性の評価においては、地下300 m以深に設置される処分施設からの廃棄物由来の放射性物質の移行を評価するとともに、人間の生活環境である地表環境(生活圏)に至った後の移行のプロセスと、人間への被ばくのプロセスを想定することで被ばく線量の算出・評価(生活圏評価)を行います。地表環境中での廃棄物由来の放射性物質の移行は、液相や固相(水や土砂に該当)の移動に伴うものであり、人間への被ばくには、放射性物質を含む水の摂取等が影響します。
一方、こうした移行のプロセスや被ばくの経路は、地形や土地利用などの地表環境の特徴に大きく左右されます。また、地層処分の安全性の評価の対象となる数万〜数十万年といった遠い将来の地表環境を正確に予測することも困難です。
そのため、生活圏評価では、地表環境の構成をコンパートメントと呼ばれる均質な区画の組合せとして、また、地表環境での放射性物質の移行プロセスと被ばく経路をコンパートメント間での水や土砂、放射性物質の移動として、それぞれ一般化して表現した生活圏評価モデルがよく用いられています。さらに、長期的な評価では、侵食や運搬等に伴う土砂の動きにも着目する必要があります。
本研究では、今後処分場の場所が特定された際に、その場所の地表環境の状態(地形や植生・土地利用、水系等)に応じて、地表環境中での侵食に伴う土砂の運搬・堆積による放射性物質の動きを計算できるようにしました。この計算では、農業土木分野で広く使われている土壌流亡予測式と簡易的な水理公式を併用したモデルを構築し適用しました。このモデルは、公開情報として容易に入手できる地形や土地利用、降水量等の情報を入力データとして利用し、環境中の放射性物質の広域的な分布や主要な河川流域からの流出量の経年変化を計算できるものであり、東京電力福島第一原子力発電所事故を受けた環境動態研究でも適用されています。
図8-19は、Step1で設定した地表環境に対して、Step2で土砂の移動を計算した例です。この例では、地下の処分施設からの廃棄物由来の放射性物質の移行と地表環境への流出点が別途検討・推定された場合を想定し、その流出点を含む領域から侵食された土砂が、河川に沿って移動しながら希釈されていく状況を示しています。
この手法により、公開データを活用した簡便な計算で、土砂の動きやそれに伴う放射性物質の動きを想定する地表環境や、その時間変遷の特徴を考慮して評価することが可能になりました。これは、生活圏評価で重要となるコンパートメント間での土砂の移動量やそれに伴う放射性物質の移行量を、想定する地表環境や時間変遷の特徴に応じて定量的に見積ることに適用できると考えられます。