1-2 溶融燃料(燃料デブリ)の硬さを計算で明らかにする

−第一原理計算による燃料デブリの機械的特性評価−

図1-4 ウラン・ジルコニウム酸化物の結晶構造

図1-4 ウラン・ジルコニウム酸化物の結晶構造

実際の計算に用いたウラン・ジルコニウム酸化物の結晶構造の一つを示しています。()はウラン、()がジルコニウム、()が酸素原子に対応していて、ウラン原子24個、ジルコニウム9個、酸素64個からできています。

 

図1-5 ウラン・ジルコニウム酸化物のヤング率の比

図1-5 ウラン・ジルコニウム酸化物のヤング率の比

横軸はウランとジルコニウムの合計のうち、どれだけジルコニウムが占めているかを表しています。縦軸はジルコニウムの割合が0のときと比較したヤング率の相対比を示しています。が実験結果、が計算結果です。ジルコニウムの割合が25%の付近で最小値を取る実験値の振る舞いを、計算結果が再現しているのが分かります。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)では、溶融した燃料が固まってできた燃料デブリの取出しが重要な課題となっています。デブリを安全に取り出すためには硬さや弾性係数、破壊靭性などの機械的特性を明らかにする必要があります。しかし、実際の燃料デブリの性状ははっきりしておらず、模擬的な燃料デブリを作成して機械的特性を調べる必要があります。

この場合、デブリの詳細な成分が分かっていないため、たくさんの種類の模擬デブリを作成して実験を行わなければならず、時間的にも費用的にも大きなコストが必要となります。これに対して、もし、数値シミュレーションで燃料デブリの機械的特性を評価できれば、大きなコスト削減となり、デブリ取出しを効率化できる可能性があります。このような状況を受けて、燃料デブリの主成分であるウラン・ジルコニウム酸化物(図1-4)の機械特性を原子レベルのシミュレーションによって評価することに挑戦しました。シミュレーションには第一原理計算と呼ばれる経験的なパラメータを必要としない信頼性の高い方法を用いました。

図1-5にウラン・ジルコニウム酸化物の弾性係数の一種であるヤング率の計算結果を示してあります。この図から分かるように、ヤング率はジルコニウムの割合が25%までは減少し、その後再び増加する振る舞いが実験で報告されていました。私たちの計算結果でも同じように25%付近で最小値を取ることが確認できました。シミュレーションの結果を解析すると、酸素原子の配置の歪みが25%で最も大きくなり、その歪みのためにヤング率が減少していることが分かりました。このようにシミュレーションでは、物性値の評価のみならず、その原因の解明も行うことが可能です。

今回、燃料デブリの機械的特性に注目し、原子レベルのシミュレーションによって評価することに成功しました。しかしながら、デブリ取出しのためには弾性係数以外の機械的特性など、様々な情報が必要となります。これらの情報の多くは実験で確かめなければならないでしょうが、シミュレーション技術を生かして実験を支援していくことで、デブリの取出しを始めとする1Fの廃止措置に貢献していきたいと考えています。