成果普及情報誌トップページ原子力機構の研究開発成果2019-20>1 福島第一原子力発電所事故の対処に係る研究開発

1 福島第一原子力発電所事故の対処に係る研究開発

英知を結集し1Fの廃止措置と福島の環境回復に役立つ研究成果を目指す

図1-1 福島県における研究開発の現場と活動状況

拡大図(457kB)

図1-1 福島県における研究開発の現場と活動状況

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)の事故以降、原子力機構は我が国で唯一の原子力に関する総合的な研究開発機関として、1Fの廃止措置及び福島の環境回復に係る研究開発を四つのセンターを中心に取り組んでいます(図1-1)。

廃止措置に関しては、廃炉国際共同研究センターを中心に、燃料デブリ取出しに向けて、炉内における燃料デブリ等の分布状況を把握するための検討(トピックス1-1)を進めてきました。さらに燃料デブリの特性を把握するために、シミュレーションによる機械的特性評価(トピックス1-2)や硬化の要因となるホウ素の挙動を明らかにする実験(トピックス1-3)等を実施しています。取出し作業時における放射線管理の観点から、デブリの臨界評価手法を整備(トピックス1-4)するとともに、温湿度の管理がなされていない1F内においても信頼性を持ってα線のモニタを可能とする測定器の開発(トピックス1-5)も進めています。また、これまでの廃止措置作業に伴って発生した液体や固体状の放射性廃棄物の保管、処理、処分、再生利用に向けた検討(トピックス1-61-71-81-9)も進めています。2019年度から、幅広い分野から人材を集め、大学や民間企業と緊密に連携するラボラトリを開設し、1F廃止措置を支える人材の育成と英知の集結をさらに加速する予定です(図1-1右下)。

遠隔操作機器・装置による実証試験等を実施する楢葉遠隔技術開発センターにおいては、作業者訓練を行うための最新のバーチャルリアリティ(VR)システム(図1-1左下)の整備や廃止措置のためのロボットシミュレータの開発(トピックス1-10)等を進めています。さらに、1F廃止措置に取り組む外部利用の施設としても位置づけられており、国際廃炉研究開発機構(IRID)による原子炉格納容器内水循環システムのバウンダリ有効性確認試験等も実施されています。

燃料デブリや様々な放射性廃棄物の分析・研究を行う大熊分析・研究センターは、現在、低、中線量のがれき類、水処理二次廃棄物等の分析を行う第1棟の建設及び燃料デブリ等の分析を行う第2棟の詳細設計を進めています。施設管理棟のワークショップでは、将来の分析作業につなげるための教育訓練を行っています(図1-1右上)。これら三つのセンターは、福島イノベーション・コースト構想の一翼を担う廃炉関連施設とされ、研究開発を通じて1Fの廃止措置に貢献していきます。

福島環境安全センターでは、環境回復に関する研究開発に取り組んでいます。環境中での放射性物質の移動挙動解明・予測を目指す環境動態研究では、予測のカギを握る河川への放射性セシウムの溶出挙動について、河川中濃度の減少傾向(トピックス1-11)と流域水循環モデルによる解析(トピックス1-12)から、現象理解を進めるとともに、川や池底中のセシウム分布の迅速評価技術を開発しました(トピックス1-13)。海洋では、蛇行する潮流の影響で放射性物質が深層に急激に沈み込む新現象を見いだしました(トピックス1-14)。環境中での放射性物質分布状況の迅速評価手法確立を目指す環境モニタリング・マッピング技術開発では、無人ヘリ測定への逆問題解析手法の適用(トピックス1-15)を進め、特定復興再生拠点の被ばく評価の精細化(トピックス1-16)につなげました。また、複雑な居住環境の空間線量率分布の予測手法を開発しました(トピックス1-17)。これらの研究開発成果を分かりやすく提供し(図1-1左上)、自治体等での施策検討や安全・安心感醸成に貢献していきます。

福島研究開発部門は、今後とも国内外の英知を結集し、1Fの廃止措置や環境回復のための研究成果を生み出し発信していきます。また、地域の企業や研究・教育機関などとネットワークを構築することにより、地域産業の活性化や人材育成につなげ、福島復興に貢献していきます。