図1-38 放射線モニタリングから被ばく線量の評価までの一連の流れ
東京電力福島第一原子力発電所(1F)の事故に伴い設定された避難指示区域のうち、空間線量率が特に高く、長期にわたり居住を制限するとされてきた帰還困難区域についても、線量の低下状況を踏まえて避難指示を解除し、居住を可能とする「特定復興再生拠点区域(復興拠点)」を整備する方針が示されました。1Fの周辺に位置する大熊町等では、2023年春頃までの避難指示解除を目標に、復興拠点の除染やインフラ等の整備が行われています。これに併せ、内閣府原子力被災者生活支援チーム(被災者支援チーム)は、復興拠点への住民の帰還を現実のものとすべく、必要な放射線防護対策の検討を進めています。私たちは、2018年夏から被災者生活支援チーム等からの協力依頼に基づき、復興拠点における(1)無人ヘリコプターによる迅速かつ詳細な面的な空間線量率分布状況の把握、(2)代表的な地点における大気浮遊塵の採取と放射能濃度の測定、(3)代表的な行動パターンにおける外部・内部被ばくの評価等を実施しています。
被ばく線量は、自治体等からのヒアリングの結果に基づき、復興拠点区域内の行動パターンを設定し(図1-38(a))、空間線量率分布測定結果(図1-38(b))や大気中放射性物質濃度の測定結果(図1-38(c))等の実測データを用いて、実測データの代表値を用いた評価(決定論的評価)と実測データの分布を用いたモンテカルロ解析による線量分布の評価(確率論的評価)を実施しました(図1-38(d))。評価の結果、最も保守的な想定となる活動時間の大部分を屋外で活動するパターン(図1-38(a)のOD-03のパターン)の外部被ばくによる実効線量は、95%値で約40 μSv(1回の立入りに伴う外部被ばく線量)、算術平均で約16 μSv(1回の立入りに伴う外部被ばく線量)でした。また、大気中放射性物質濃度の測定結果(図1-38(c))から算出した放射性セシウムの再浮遊に伴う吸入による内部被ばく線量は、外部被ばく線量と比べて5桁ほど低い値となることが分かりました。
これらの調査結果を踏まえた放射線防護対策案が、第47回原子力規制委員会(2018年12月12日)で了承され、具体的な対策について、国と自治体等との調整が進められています。今後も放射線のモニタリングから被ばく評価までの一連の手法を高度化するとともに、より現実的な評価を行い、避難指示解除の加速化に直接的に貢献する成果を創出していきます。