図1-35 上空から測定した放射線測定値の換算イメージ
図1-36 上空測定換算値と地上測定値の比較
図1-37 上空放射線測定値を換算した空間線量率の分布
東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故以降、有人ヘリコプターや無人ヘリコプターなどを用いて上空から1F周辺における放射線モニタリングが行われています。上空で測定された放射線測定値は、多くの場合、地上1 m空間線量値に換算され情報提供されます。従来の換算手法では、地形構造が平面で、線源が均一に分布したモデルを仮定し、測定地点と地面との距離に応じた空気による放射線の減衰効果を考慮していました。しかし、地形の起伏が大きい場合や、地面と放射線検出器との間に樹木等の遮へい物があった場合は、地上測定値と上空からの測定による換算値が整合しないという課題がありました。この課題を解決するため、地上各地点から上空の各測定点に至る個々の経路における放射線の減衰効果を考慮できる逆問題解析手法(以下、新手法)を用いて、地形の凹凸及び森林の遮へい等の効果を考慮した解析手法を開発しました。
本解析手法は、医療分野において体内の臓器を可視化する技術として用いられているML-EM(最尤推定-期待値最大化)法を応用したものです。具体的には、複数の上空測定点で測定した放射線計数値から、最適な地上値の分布を算出します(図1-35)。さらに換算のために必要となる減衰のパラメータとしては、従来法でも用いられていた空気による放射線の減衰効果に加え、γ線の土壌による遮へい及び散乱による減衰効果並びに、樹木による減衰効果を適用しました。
図1-36は、無人ヘリコプターで取得した放射線測定値を従来法及び新手法で換算し、それぞれの換算値を地上測定値と比較したものです。その結果、新手法による換算は、従来法による換算に比べて、より地上測定値に近い換算値を得られることが分かりました。図1-37は、(a)従来法及び(b)新手法で得られた空間線量率分布マップです。赤い円で示されているエリアは除染されたエリアです。従来法では周辺線量の影響を受けるため除染の場所がはっきり見えませんでしたが、新手法ではより鮮明に除染の効果を確認することができます。
今後、逆問題解析におけるパラメータの最適化を行い、上空からの測定に限らず、地上における測定等でも適用できるよう、計算アルゴリズムを開発する予定です。