1-13 試料を採取せずに池底のセシウム分布解明へ

−ため池底質中放射性セシウムの深さ分布の可視化−

図1-30 底質表面でのγ線スペクトルの測定イメージ

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図1-30 底質表面でのγ線スペクトルの測定イメージ

(a)底質中のCsの深さ分布が小さい場合、Csから放出される直接γ線の割合が高いです。(b)底質中のCsの深さ分布が大きい場合、直接γ線は土壌粒子で遮へいされ、散乱γ線の割合が高いです。(c)RPCとβeffの関係を示します。

 

図1-31 本研究の推定結果を実際のため池に適用した例

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図1-31 本研究の推定結果を実際のため池に適用した例

本研究により得られた換算係数に基づいて、実際のため池水底でのγ線スペクトルの測定結果((a)42地点)から、(b)底質表層のCs濃度と(c)Csの深さ分布を同時に推定することができました。

 


ため池水底の放射性セシウム(Cs)の汚染実態を知ることは、営農再開に向けて効率的な除染や浚渫の方法を提案する上で重要ですが、浚渫計画立案に不可欠な深さ方向の濃度分布データ取得には、多くの手間と時間がかかるという課題がありました。私たちは、東京電力福島第一原子力発電所事故後から、耐水性放射線検出器を用いた放射線モニタリング技術の開発を行っており、広い範囲のため池水底のCsの分布状況を、迅速かつ簡便に測定することを可能としてきました。しかし、従来の方法では、水底の表層付近の濃度しか評価できませんでした。今回、水底の底質表面で得られたγ線スペクトルの特性(散乱γ線と直接γ線)から、底質中Csの深さ分布を推定する手法を開発しました(図1-30)。

Csが存在する深さによって、検出される直接γ線と散乱γ線の割合が変化すると推測されます。その理論の実証のため、福島県内の64のため池内の合計253ヶ所で、同じ場所のγ線スペクトルの特性と、底質試料中Cs濃度の深さ分布データの比較実験を実施しました。放射線検出器は、NaI(Tl)シンチレーション検出器(A-Sub、株式会社日立製作所)を用いました。測定地点で船上から検出器を水底に下ろし、2分間測定しました。得られたγ線スペクトルから、散乱γ線領域(150〜250 keV)、直接γ線領域(550〜850 keV)の計数率比(Ratio of Peak Compton:RPC)を計算しました。同じ地点で柱状採泥器を用いて約5〜40 cmの柱状試料を採取しました。厚さ5 cmごとに分割し、各試料中のCs濃度をGe半導体検出器で測定し、深さ分布のパラメータ(実効的重量緩衝深度(βeff g cm-2)を求めました。

RPC及びβeffの間には良好な正の相関が認められました(図1-30(c))。これは、γ線スペクトルの特性から、検出器直下の底質中Csの深さ分布が推定できることを意味します。ため池全体を網羅するように、42地点(図1-31(a))でγ線スペクトルを測定し、表層のCs濃度の分布マップ(図1-31(b))と、先ほどの相関式から推定したβeffマップ(図1-31(c))を作成しました。このように、従来法に比べて、現地での測定のみかつ圧倒的に短い時間で、底質中Csの三次元分布を評価できます。

これらの結果は、帰還困難区域での営農再開に向けた、浚渫等の湖沼の管理に活用できます。