図1-28 解析対象領域の三次元構造モデル
図1-29 河川水中における溶存態及び懸濁態137Cs濃度の計算結果
東京電力福島第一原子力発電所事故由来の放射性セシウム(Cs)は、その約70%が未除染の森林地帯に存在するため、森林から渓流・河川へCsがどのように動くのかを把握することが、農作物や淡水生態系中のCs濃度の変化傾向を理解するために重要です。特に土壌粒子等に吸着されたCs(懸濁態Cs)のみならず、生物移行性の高い、水に溶けたCs(溶存態Cs)流出の現象理解が欠かせません。本研究では、99%森林地帯の太田川上流域(南相馬市及び浪江町、図1-28)を対象に、流域水循環モデル(GETFLOWS)を用いた水、土砂及びCs移動の数値解析を行い、実測値と解析結果の比較を通じて、上流域での溶存態Cs流出の現象理解を進めました。
はじめに図1-28の流出点において、流量及び土砂流出量に関するモデルの再現性を確認しました。Cs溶出メカニズムとして、河川水中の懸濁態と溶存態のCs濃度比(分配係数)が一定となるよう、瞬時に懸濁態からCsの溶出が起こると考える吸着分配平衡を仮定し、次の二つの解析ケースを計算しました。ケース1は、解析地点での実測値に基づき分配係数を設定し、ケース2は、過去の観測事例に基づき、土砂の細粒分により比較的高い濃度でCsが含まれるとする設定としました。
2014年1月から2015年12月までを対象に、図1-28の流出点における河川水中の溶存態及び懸濁態Cs(ここでは137Cs)の濃度の計算結果を図1-29に示します。解析ケース1(-)の結果は、平水時の溶存態137Cs濃度の実測値(0.14〜0.53 Bq L-1、平均:0.32 Bq L-1)を過小評価傾向でしたが、解析ケース2(-)は、より実測値に整合的な結果(平均:0.36 Bq L-1)となりました。したがって、本モデルは、吸着分配平衡仮定下で、平水時の溶存態137Cs濃度をある程度再現できました。
しかし、溶存態137Cs濃度の出水時の上昇(●)、そして夏季に高く冬季に低いといった季節変動(●)といった実測値で認められた変化傾向を十分再現することができませんでした。つまり、河川の調査結果でも明らかなように、森林の林床に存在する落葉落枝の層から溶存態137Csが溶出し、渓流・河川へ流出してきていることが推測されますが、そのプロセスは吸着分配平衡以外のメカニズムが支配していると考えられます。
今後、河川調査や室内実験を通じて、森林の落葉落枝の層から渓流・河川への溶存態137Cs溶出メカニズムを明らかにし、そのプロセスを反映させる等、本解析法の改良と検証を進めていきます。