図1-6 制御棒ブレード試験体外観
図1-7 事故初期過程における制御棒ブレード破損進展メカニズム
東京電力福島第一原子力発電所(1F)原子炉の制御材として使用されている炭化ホウ素(B4C)は、事故が発生した場合、中性子吸収棒材のステンレス鋼(SS)と共晶反応し液化します。その溶解物は中性子吸収棒材に含まれるクロム(Cr)やチャンネルボックス材のジルコニウム(Zr)とともに凝固し、非常に硬い凝固物を形成する可能性があります。また、高温で水蒸気と反応したB4Cはエアロゾル(B2O3)として蒸発し、セシウム(Cs)やヨウ素(I)といった核分裂生成物の化学反応挙動に影響を及ぼす可能性があります。これらのため、制御棒ブレードの破損に伴うこれらのホウ素の挙動を理解することは、1F廃止措置を進めるために重要となります。
事故時の制御棒ブレード破損挙動を調査するため、模擬燃料集合体(長さ約1.2 m)に対して、昇温速度(〜1 ℃/s)や水蒸気流量(〜50 g/min)、試験体軸方向温度勾配(〜500 ℃/m)を変化させて加熱試験可能な装置(Large-scale Equipment for Investigation of Severe Accidents in Nuclear reactors:LEISAN)を整備しました。本研究では、1F2号機のプラントデータを基に、事故初期過程を概略評価し、設定した試験条件にて、制御棒ブレード破損試験を行い、制御棒ブレード破損に伴うホウ素の挙動を調査しました。
試験の結果、試験体上部では、B4CとSSの溶解は確認できましたが、温度1500 ℃でも制御棒ブレードは完全に溶解破損せず、中性子吸収棒は初期のB4C粉末を保持していることが分かりました(図1-6)。図1-7に水蒸気枯渇条件下での事故初期過程における制御棒ブレード破損進展メカニズムのイメージを示します。試験体上部では、1200 ℃近傍でB4CとSSの共晶が生じ、溶解物が試験体下部へ移行を開始します。そのときの試験体下部(図1-6中の試験体下部凝固閉塞部分)の温度は900 ℃近傍であり、ここで上部溶解物の凝固閉塞が開始したと考えています。
試験後試験体の元素分析より、B4CはSSと接触し、反応で生じた溶解物はB4C粉末側にFeリッチホウ炭化物を、外表面側にFeを含有するCrリッチホウ炭化物を形成することが明らかとなりました(図1-7)。Crリッチホウ炭化物はB4C粉末を包み込むことで中性子吸収棒からのホウ素の放出を抑えるため、エアロゾルの発生が抑制されることが考えられました。
試験後試験体の特徴としては、制御棒ブレード上部の残存物は脆く壊れやすい一方で、ブレード上部から流出した溶解物が試験体下部で凝固したものは非常に硬く頑強であったため、今後のデブリ取出しにあたっては取出し機器選定時の課題になることが予想されました。
本研究は、経済産業省資源エネルギー庁からの受託研究「平成29年度原子力の安全性向上に資する共通基盤整備のための技術開発事業(シビアアクシデント時の燃料破損・溶融過程解析手法の高度化)」の成果の一部です。