1-4 燃料デブリの臨界性に対する不確かさを評価する

−乱雑な物質分布を考慮した臨界計算手法の開発−

図1-8 仮想的な燃料デブリを含む体系

図1-8 仮想的な燃料デブリを含む体系

内側の燃料デブリ領域は一辺が100 cmの立方体で、その外側を厚さ20 cmのコンクリートが覆っている体系です。燃料デブリを二つの物質が入り混じったものとして表現することができます。茶色の部分は片方の物質が100%、青色はもう片方の物質が100%となる領域を示しています。

 

図1-9 仮想的な燃料デブリを含む体系に対する臨界性のゆらぎ

図1-9 仮想的な燃料デブリを含む体系に対する臨界性のゆらぎ

燃料デブリは核燃料とコンクリートの混合物(混合比1:7)の中に平均で20%のステンレス鋼が混合しているものとしました。燃料デブリ内でステンレス鋼は0%〜40%の範囲で連続的に変動するものとして臨界性を計算しました。 線は組成分布が均一であると仮定したときの臨界性(=0.9562)です。

 


東京電力福島第一原子力発電所事故では、核燃料が溶融し、鉄やコンクリートなどの構造材を巻き込んだ燃料デブリが生じていると考えられています。廃炉作業の燃料デブリ取出しに際しては、臨界安全の観点から、燃料デブリの臨界性をコンピュータ解析によりあらかじめ推定することが重要です。従来のコンピュータプログラムでは、均一とみなせるまで物質領域を分割しモデル化しますが、燃料デブリの場合、核燃料と構造材が複雑に入り混じり、組成が連続的に分布していると考えられます。また、従来の解析では全ての領域において組成が既知である必要がありますが、燃料デブリに対してそれを知ることは困難です。

私たちは、ワイエルシュトラス関数を用いて連続的に組成が分布する体系をコンピュータプログラムで計算する手法を開発しました。解析者は、組成の平均値とその不確かさを決めるパラメータと、乱雑さの度合いを決めるパラメータを入力するだけで、図1-8に示されるような体系を作り出すことができます。この手法では、燃料デブリを二つの物質が入り混じったものとして表現することができます。例えば、片方の物質を核燃料、もう片方の物質をコンクリートとして、それらの物質が連続的に入り混じる様子を表現することができます。この体系は確率的に生成されるので、生成するたびに異なる組成分布になります。各々の体系・組成分布をレプリカと呼び、複数のレプリカに対して臨界性を計算し統計処理をすれば、組成分布が不明なことによる不確かさを計算することができます。

図1-9は、仮想的な燃料デブリを含む体系に対してレプリカを100個生成し、臨界性を計算したもので、臨界性がばらつく幅(ゆらぎ)を示した図です。燃料デブリは核燃料とコンクリートの混合物(混合比1:7)の中に平均で20%のステンレス鋼が混合しているものとしました。燃料デブリ内で、ステンレス鋼は0%〜40%の範囲で乱雑かつ連続的に変動すると仮定しています。図1-8において茶色(目盛り1.0)が核燃料とコンクリート混合物のみの部分、青色(目盛り-1.0)が混合物にステンレス鋼が40%含まれた部分になります。図1-9の 線で示した値は、燃料デブリの組成が空間的に一定であると仮定し、計算した臨界性を示しています。この図から分かるようにステンレス鋼の分布によっては臨界性が0.98になることもあり、従来の均一分布を仮定した臨界性の評価だけでなく、不均一な分布によって生じる臨界性の不確かさを評価することが重要です。

今後は、ボクセル体系を重ね合わせた計算手法の開発や、三つ以上の物質を混合できるように拡張し、想定される様々な体系に対応する予定です。また、開発した手法を汎用的かつ柔軟に利用できるように新しいモンテカルロソルバーも現在開発しています。

本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「原子力施設等防災対策等委託費(東京電力福島第一原子力発電所燃料デブリの臨界評価手法の整備)事業」(平成27〜30年度)の成果の一部です。