1-7 測定が困難な放射性廃棄物の放射能量を推定する

−ゼオライトへのアクチノイドの収着挙動−

図1-16 U及びNpの収着試験試料の外観

図1-16 U及びNpの収着試験試料の外観

収着試験では、ゼオライトを浸漬した溶液中にUまたはNpを添加し、溶液中の各元素濃度の経時変化から、ゼオライトへの収着挙動を観察します。

 

図1-17 U及びNpの分配比の時間依存性

図1-17 U及びNpの分配比の時間依存性

10%人工海水中でのUの分配比は高い値を示すのに対し、Np及び人工海水中のUは分配比が低いことが分かりました。

 

図1-18 Uの収着分配係数のpH依存性

図1-18 Uの収着分配係数のpH依存性

Uの収着分配係数はNa濃度が変化しても大きく変化しないのに対し、pH8以上では炭酸濃度の上昇に伴って収着分配係数が大きく低下することが分かりました。

 


東京電力福島第一原子力発電所では、汚染水中の放射性物質を除去するため、汚染水処理設備が稼働しています。処理設備では、放射性物質を除去する吸着材の一つとして、ゼオライトが使われています。使用済みゼオライトは放射性廃棄物として処分されますが、処分方法の検討や処分後の安全評価のため、ゼオライト中の放射性物質の種類と量を把握する必要があります。しかしながら、使用済みゼオライトは放射線量が高く、金属容器に密封されているため、容易に採取して分析することができません。そのため、放射性物質のゼオライトへの収着挙動からゼオライト中の放射性物質の種類と量を推定する手法の開発を目指し、汚染水処理設備の一つである第二セシウム吸着装置(SARRY)に使用されているゼオライト(IONSIVTM IE-96, UOP)を用い、ウラン(U)及びネプツニウム(Np)の収着試験を行いました(図1-16)。

人工海水及び人工海水をイオン交換水で10倍希釈した溶液(以下、10%人工海水)を用いた試験の結果(図1-17)、人工海水中でUの分配比は低い値を示すのに対し、10%人工海水では分配比が大きく上昇しました。一方、Npの分配比は人工海水濃度によらず低い値を示しました。ここで分配比は、ゼオライトへのU、Npの収着量(固相中濃度)を溶液中の各元素の濃度で除した値で表され、分配比が高いほど多く収着することを示します。

人工海水と10%人工海水での分配比の変化の要因を調べるため、溶液中のNa濃度と炭酸濃度を変えて収着試験を行いました。結果を収着分配係数(以下、Kd )のpH依存性として示します(図1-18)。ここで、Kd は収着平衡時の分配比で表されます。UのKd はNa濃度に依存しないのに対し、人工海水と同程度のpHであるpH8〜9では、炭酸濃度が上昇するとKd が大きく低下します。このことから、人工海水と10%人工海水でのUの分配比の違いは、溶液中の炭酸濃度の違いが要因と考えられました。これは、収着性の低い炭酸錯体(Uと炭酸が結合した化学種)が増加したためと推測されます。一方、NpのKd はNa濃度にも炭酸濃度にも依存せず、人工海水及び10%人工海水で取得した分配比と整合的な傾向を示しました。

本結果により、ゼオライト中の放射性物質の種類と量を把握する上では、汚染水中の炭酸濃度が重要となる可能性が明らかになりました。

本研究は、経済産業省資源エネルギー庁の平成26年度補正予算「廃炉・汚染水対策事業費補助金(固体廃棄物の処理・処分に関する研究開発)」の成果の一部です。