4-4 加速器・宇宙・医療現場の粒子線を正確に計測

−シンチレーション検出器の光出力を決める仕組みを解明−

図4-9 シンチレーション検出器の発光量予測モデル

図4-9 シンチレーション検出器の発光量予測モデル

従来の経験式モデル(a)とは異なり、本研究の数理モデル(b)ではシンチレータにエネルギーを付与した後の過程を考慮しています。

 

図4-10 重粒子のエネルギー付与と光出力の関係

拡大図(117kB)

図4-10 重粒子のエネルギー付与と光出力の関係

従来の経験式では再現できなかった重イオン(4He〜81Br)による発光の量を、本モデルは再現できることを示しています。

 


放射線を検知し光を発するシンチレーション検出器は、高感度で低価格という優れた特性から、γ線や中性子線の計測、放射線量の測定に広く使用されています。シンチレーション検出器は多くの場合付与されたエネルギーと比例した量の光を生じるため、放射線のエネルギーを測定することも可能です。しかし、加速器や宇宙、医療において重要な陽子線や重粒子線の場合は、発光量がエネルギー付与量だけでなく粒子の種類にも依存するため、放射線量を正しく評価できない問題がありました。そのため、発光量を決めるメカニズムの解明と、それに基づく正確な発光量予測手法の開発が望まれてきました。

本研究では私たちは、エネルギー付与量に加えて、エネルギー付与の集中の程度により発光が阻害されると予測し、以下三つの挙動を組み合わせた数理モデルを開発しました。①放射線がシンチレータにエネルギーを付与する。②付与されたエネルギーが分子間を移動する。③移動したエネルギーが特定の状態遷移により発光に関与することなく逸失する(図4-9)。①の、放射線がシンチレータにエネルギーを付与する挙動の予測には、放射線生物学研究のために作られた計算モデルRITRACKS を転用します。これにより、放射線ごとのエネルギー付与分布の違いが考慮できます。②の付与されたエネルギーが蛍光分子の間を移動する挙動の予測には、蛍光タンパク質(下村脩名誉教授がノーベル賞を受賞、2008年)が蛍光のエネルギーを分子間でやり取りする過程を表現するフェルスター効果理論を使用します。③で、エネルギーを一部の空間に集中して付与するより重い粒子などの場合、一つの分子にエネルギーが複数回付与され、2回目以降のエネルギー付与は光ではなく熱として逃げる(カシャの法則)ことを考慮します。

この数理モデルを、一般的に使用されているシンチレーション検出器に適用し、α線、β線やγ線、陽子線、重粒子線などの様々な放射線によるシンチレーション検出器の発光量を計算しました。その計算値は過去の文献の実験値と良く一致し(図4-10)、特に、陽子線や重粒子線によるシンチレーション検出器の発光が、付与されたエネルギーに対して少なくなる仕組みが本研究のモデルにより初めて説明できました。

本成果により、陽子・重イオンが重要となる加速器、宇宙、医療現場等において、シンチレーション検出器による正確な放射線計測が可能となるとともに、新たなシンチレーション測定器の開発にも貢献することが期待できます。例えば、複数のシンチレータの出力から、粒子の種類やエネルギーを特定する測定システムを設計することが可能です。



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