4-5 日本人の体格変動を考慮して被ばく線量を評価する

−成人日本人人体モデルシリーズの完成−

図4-11 開発した体格変形プログラムを用いた日本人男性(左)及び女性(右)の人体モデルの構築

図4-11 開発した体格変形プログラムを用いた日本人男性(左)及び女性(右)の人体モデルの構築

胸囲等、身長、体重を入力することで、平均体格モデルを基礎として、日本人体格範囲を網羅する人体モデルを構築する体格変形プログラムを開発しました。

 

図4-12 体格の異なる日本人モデルとICRP標準モデル間の光子外部照射による臓器線量比較

図4-12 体格の異なる日本人モデルとICRP標準モデル間の光子外部照射による臓器線量比較

線量評価で重要となる乳房、結腸、肺、胃、精巣を選び、線量解析を行いました。

 


放射線による人体への影響を表す指標である被ばく線量を計算シミュレーションで評価する場合、コンピュータ上で体格や臓器の形状等を再現した人体モデルを利用します。医療被ばくや放射線の健康影響のための疫学調査における線量評価では、被ばく条件を可能な限り考慮することが重要となります。本研究では、日本人の体格変動を考慮した線量評価に必要となる多様な人体モデルを合理的に作成する技術の開発を進めました。また、開発した技術を活用し、国内の放射線施設の運転計画の立案等の放射線防護を目的とした線量評価に対する、国際放射線防護委員会(ICRP)の線量評価データの適用性を検証しました。

近年、被験者の医療画像を処理して、人体を精密に再現したモデルが開発されています。本研究では、原子力機構で開発した成人日本人の平均的な体格を持つ男女のモデルに基づき、体格指数(BMI)と密接に関係する胸囲等の情報から人体の表面形状を数値的に表現し、体内の臓器を適切な位置に配置する手法を考案しました。続いて、この手法を活用し、人体モデルを自動的に構築するプログラムを開発しました。これにより、医療画像を新たに取得することなく、従来よりも大幅に短い時間で様々な体格の人体モデルを構築することを可能にしました(図4-11)。また、開発した手法により、日本人体格を網羅する人体モデルシリーズを構築しました。

この人体モデルシリーズを活用し、放射線防護を目的とした線量評価において、ICRPが利用を勧告している欧米人の平均的な体格に基づく標準モデルで導出された線量評価データを日本人に適用することの妥当性を調べました。ICRPの標準モデルと日本人モデルシリーズを用いて、光子外部被ばくにより体内の臓器が受ける線量(臓器線量)を様々な照射幾何条件及びエネルギーで計算し比較しました。結果の一例として、浮遊する放射性ガス雲からの人体への照射を近似する等方ジオメトリで0.3 MeV光子による外部被ばくを受けた条件について、異なるBMIを持つ日本人モデルとICRPの標準モデルによる臓器線量の比較を図4-12に示します。計算により、皮下の脂肪や筋肉による遮へい効果のため、肺、胃及び結腸では、体格により線量が変化することが分かりました。ただし、日本人集団の約90%が含まれる範囲(BMI:18〜28)においては、ICRPの標準モデルによる臓器線量との差は、多くのケースで±10%程度となり、日本人の体格変動が線量評価に及ぼす影響は限定的です。これにより、国内の放射線防護を目的とした外部被ばく線量評価において、ICRPが公開する標準データを適用しても合理的に目的を達成することを明らかにしました。