4-6 重大事故時の原子炉内における核分裂生成物の化学挙動を予測

−核分裂生成物の化学挙動データベースECUMEを開発−

図4-13 化学反応速度論を考慮した解析により得られたSA時に低温側に移行していくCs化学種の割合

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図4-13 化学反応速度論を考慮した解析により得られたSA時に低温側に移行していくCs化学種の割合

核分裂生成物(FP)であるCsやI等を対象に、より実態に即してSA時のFP挙動を解析できるように化学反応速度論を適用したデータベースを開発しました。これを用いて仮想的なSA条件で原子炉内移行時のCs等化学種の割合を算出しました。従来のSA解析コードのように平衡状態を仮定した解析では、低温側に移行するにつれ、化学種割合が大きく乖離するものがあることが分かりました。これはCsの環境への放出量が過大若しくは過小評価されることにつながる可能性を示しており、被ばく評価を精度良く行うには化学反応速度論的な評価が必要であることを示しています。

 


軽水炉の重大事故(シビアアクシデント:SA)時に高温の核燃料から核分裂生成物(FP)が放出され、圧力容器等の炉内高温領域を経て、格納容器や環境に放出されます(FP放出・移行挙動)。軽水炉の安全性向上のためには、これらの挙動を詳細に把握し、被ばく評価を精度良く行う必要があります。FP放出・移行挙動は、化学挙動、すなわち「どのような化学反応を生じてどのような性状の化学種となるか」に依存します。一方、SA時のFP放出・移行挙動を解析するための数値解析コード(SA解析コード)では、瞬時に平衡状態が達成されると仮定して化学挙動を解析しており、特に反応速度が低くなる低温領域での解析結果には大きな不確定性が内在すると考えられます。

このため、より実態に即したSA解析を行えるように、化学反応速度論を考慮した評価に必要な化学反応速度定数から成るデータベースを開発しました。ECUME(エキューム)と名付けた本データベースには、化学反応速度定数の他、FP挙動を評価するための要素過程モデルや、それらに使用する熱力学データも格納しています。被ばくの観点で重要なセシウム(Cs)やヨウ素(I)の化学挙動を対象としていますが、加えてこれらの化学挙動に大きな影響を与える沸騰水型原子炉(BWR)制御材であるホウ素等のデータも世界で初めて取り込みました。

このECUMEを用いて2500 Kから約700 Kの領域を移行する仮想的なSA条件で、化学反応速度論を考慮してCs化学種の割合を解析しました(図4-13)。また、従来のSA解析コードで適用される平衡条件でも解析を行いました。平衡状態を仮定した場合のCs化学種において、低温側に移行するにつれてECUMEを用いた場合と割合が大きく乖離するものがあることが分かりました。これは低温領域では平衡状態に達する前に低温側に移行する化学種があることを示しています。さらに、SA解析コードによる評価では、例えば、揮発性が低く炉内に沈着しやすいホウ酸Csの生成量を過大評価する、すなわち環境への放出量を過小評価すること等になる可能性があり、公衆被ばく評価を精度良く行うには化学反応速度論的な評価が必要であることを示しています。

今後は再処理施設の安全性向上において重要となるルテニウム等の様々な核分裂生成物も対象として、継続的にECUMEの拡充や実験結果等との比較による妥当性確認を行う予定です。



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