図5-9 大強度核破砕中性子源の中心部分の構成
図5-10 ピンホールコリメータによる輝度分布の測定法
図5-11 結合型減速材表面における輝度分布(5〜10 meV)
図5-12 非結合型減速材表面における輝度分布(5〜10 meV)
J-PARCの核破砕中性子源は、陽子ビームを入射させ、中性子を発生させる水銀標的、発生した中性子を散らばらせないようにするベリリウム・鉄反射体、発生した中性子を実験に適した速度まで減速させる液体水素減速材で構成されており、中性子実験装置に、中性子パルスビームを供給しています(図5-9)。液体水素減速材は、20 Kで運転され、強度を重視した中性子ビームを供給する結合型減速材(1台)、鋭さを重視した中性子ビームを供給する非結合型減速材(2台)が設置されています。非結合型は、減速材の周りに中性子吸収材を設置することで、遅い中性子の流入を防ぎ、強度は減るが、鋭くなった中性子ビームを供給します。
J-PARCの核破砕中性子源は、除熱性能や放射線損傷、構造強度などの工学設計が成立する観点のみならず、最適なビーム性能が得られるように、粒子輸送計算コードを駆使して設計した施設です。特に減速材の材料である液体水素のパラ水素分子の特性を利用してビーム特性を最適化しており、このパラ水素分子の影響は減速材から放出される中性子の輝度分布に顕著に現れます。そこで私たちは、減速材から放出される中性子の輝度分布を実測して計算値と比較することで、本施設の設計の正しさを検証しました。
図5-10に減速材からの中性子の輝度分布の測定原理を示します。ピンホールコリメータを用い、二次元中性子検出器に逆写像で測定される中性子の強度分布を測定することで、減速材からの中性子の輝度分布を測定することができます。
図5-11及び図5-12に5〜10 meVの中性子エネルギー範囲を積分した中性子輝度分布の測定結果を示します。図5-11は、結合型減速材表面における輝度分布の(a)実測値と(b)計算値を示しています。図5-11(a)では、上下の端部が強くなり中央が弱くなる分布が観測されており、図5-11(b)の計算値とも良い一致を示しています。図5-12は非結合型減速材表面における輝度分布の(a)実測値と(b)計算値を示しています。図5-12(a)では、中央部分が強くなり端部が弱くなる分布が観測されており、この測定結果も図5-12(b)の計算値と良い一致を示しています。
このように、パラ水素分子の特性が現れる輝度分布を測定して計算値と比較することで、設計時に用いた粒子輸送計算の妥当性を確認するとともに、核破砕中性子源設計の正しさを検証することができました。今後は、これらの知見を活用し、本施設のさらなる性能向上や次世代の核破砕中性子源の研究開発を進めていく予定です。