5-3 高感度・高精度な二次元中性子計測を目指して

−バンプカソード型中性子検出素子を開発−

図5-6 これまでの素子とバンプカソード型素子の断面模式図

図5-6 これまでの素子とバンプカソード型素子の断面模式図

これまでの素子では陽極から遠い第二電極の中性子信号が小さくなっていましたが、バンプカソード型素子では信号取出し用陰極を単層化したため、構造がシンプルになり、中性子信号が取り出しやすくなっています。

 

図5-7 製作したバンプカソード型素子の外観及び拡大写真

図5-7 製作したバンプカソード型素子の外観及び拡大写真

中性子の有感面積は、128 mm × 128 mmです。三角配置された2種類のバンプをXY各軸用の信号線として使用しています。

 

図5-8 中性子を用いた均一性の試験結果

図5-8 中性子を用いた均一性の試験結果

素子全面に中性子を照射して応答を調べました。全てのピクセルの計数値をヒストグラム化して、均一性が10.1%であることを確認しました。

 


ガス型二次元中性子検出器で使用するためのバンプカソード型中性子検出素子を開発しました。これまでの素子では、中性子の位置検出のためXY各軸の信号取出し用に異なる層の陰極を使用していましたが、バンプカソード型素子では、プリント基板作成技術を用いて単層化することで雑音に強く高精度な中性子計測が可能となります(図5-6)。

ガス型中性子検出器の感度を上げるためには、ガスの圧力を上げる必要がありますが、圧力を上げると中性子による信号が小さくなります。また、異なる層の陰極では層ごとに信号量が変化し、陽極からの距離に依存して信号が小さくなります。私たちの開発している検出器ではシステムの高性能化のため、多数の信号線からの微弱電気パルスを個々に信号処理する個別読み出し法という手法を用いていますが、個々の信号はさらに小さくなるため、検出器を高精度に安定して動作させるためには中性子信号を効率的に収集する必要があります。私たちはこれまで2層だったXY信号取出し用の陰極をプリント基板作成技術により単層化し、中性子信号の収集効率を向上させることで、この課題を克服しました。また単層化によって素子構造はシンプルになり、製作性、保守性、安定性等の向上が見込まれます。

開発したバンプカソード型素子の有感面積は128 mm×128 mm、各軸のピッチは1 mmであり、ポリイミド基板表面に2種類の円形バンプが三角配置された構造です(図5-7)。バンプ構造は、有限要素法を用いた電解計算を基に最適設計されています。直径0.6 mmのバンプは基板表面で横方向に連結しており、Y方向の位置決定に使用されます。この信号線に直交するように、直径0.65 mmのバンプは基板背面で連結しています。中性子は陽極・陰極間に電圧をかけることで測定されますが、放電などによる素子の劣化も生じます。開発した素子は、低い電圧でも均一性10.1%(図5-8)、位置誤差1.9 mm半値幅未満、熱中性子検出効率82%という、これまでと同等の優れた性能で測定できることを確認しました。

今回の素子開発によって、J-PARCの大強度中性子パルスをさらに有効活用できる高性能な中性子検出器の開発が可能となり、長期的に安定した高精度かつ短時間の物質の構造解析が期待されます。またガス型中性子検出器の基盤技術として、原子炉実験をはじめとする他分野の検出素子として役立つことも期待されます。