図6-6 高温工学試験研究炉(HTTR)の燃料*1
図6-7 模擬コンパクトまたは燃料コンパクトの外観
高温ガス炉は、炉心が溶融しない安全性が高い次世代の原子炉です。この特徴を持たせるため、発熱する核燃料を耐熱性に優れたセラミックスで被覆し(図6-6)、これを化学的に不活性なヘリウムガスを流すことで冷却します。しかし、炉心に酸素が大量に侵入し、燃料の周りが酸化雰囲気になってしまう万が一の事象(大規模酸化事故)を想定し、燃料コンパクトの耐酸化性を向上させることが重要です。この技術を用いることで、大規模酸化事故時に燃料コンパクトの構成材料が消滅することを防止し、高温ガス炉の安全性をさらに高めることができます。
核燃料は、セラミックスの被覆で閉じ込められた直径1 mm程度の粒子(被覆燃料粒子)です。この被覆燃料粒子同士を結合材を用いて円筒形状に焼き固めたものが、燃料コンパクトです。原子力機構に設置されている高温工学試験研究炉(HTTR)の燃料コンパクトでは、結合材に黒鉛(炭素が固体となったもの。ただしダイアモンドとは異なる)を使用しており、高温酸化雰囲気中では、黒鉛が酸素と結合して一酸化炭素または二酸化炭素になって(黒鉛の酸化)気体化により部分的に消滅(減肉及び鬆の体積割合の増加)し、最終的には完全に消滅することが知られています。本研究では、私たちは原子燃料工業株式会社と協力して、結合材を現状の黒鉛に替え、炭化ケイ素と黒鉛の混合物に置き換える技術開発を行いました。炭化ケイ素は、高温の高酸素分圧雰囲気中で固体の酸化物を形成し、消滅しないことが期待できます。模擬燃料コンパクトを試作し、耐酸化性能を調べました。
被覆燃料粒子を模擬したアルミナ粒子を、混合比を調整したケイ素と黒鉛の粉末(結合材の原料)とともに型に入れて焼結しました。その後、試作した模擬コンパクト(図6-7(a))を用い、1673 K、20%酸素混合ヘリウム雰囲気(空気組成を模擬)に10時間曝露する耐酸化試験を行いました。図6-7(b)に示すように、曝露後の模擬燃料コンパクトは、曝露前の形状を維持しており、模擬被覆燃料粒子の脱落も認められませんでした。一方、過去に行われた黒鉛結合材を用いた従来の製法の燃料コンパクトを用いた耐酸化性試験では、空気中に2時間曝露しただけで、もとの形状を保つことができず(図6-7(c))、多数の被覆燃料粒子が脱落していました。以上により、本技術によって燃料コンパクトの耐酸化性能を向上できることを確認しました。
本研究は、文部科学省「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」により実施された「高温ガス炉の安全性向上のための革新的燃料要素に関する研究」の成果の一部です。
*1 後藤実ほか, 小型高温ガス炉システムの概念設計(Ⅱ)−核設計−, JAEA-Technology 2012-017, 2012, 29p.
*2 菊地啓修ほか, 高温工学試験研究炉用燃料の空気酸化挙動, JAERI-M 92-114, 1992, 20p.