図6-8 停止中のHTTRを使った熱負荷変動吸収に関する非核加熱試験
図6-9 HTTRを対象とした非核加熱試験と出力試験の解析結果
高温ガス炉は高効率ガスタービン発電に加えて、水素製造施設等の熱利用施設の熱源として利用することを想定して開発が進められています。熱利用施設は、建設費の高い原子炉施設でなく一般産業施設として建設することが経済性向上の観点から望まれますが、そのためには、熱利用施設の運転状態によらず原子炉が安定した運転を継続できることが必要です。このことは、熱利用の需要(電力や水素等)に応じて原子炉の出力を調整する負荷追従運転を行う際にも同様に必要です。
高温ガス炉の負荷追従運転では、発電施設や水素製造施設に供給する原子炉出口冷却材(ヘリウムガス)温度を一定とし、冷却材圧力を可変として冷却材の質量流量(インベントリ)を制御し炉心からの除熱量を制御することで、原子炉出力を調整して負荷追従させる設計が原子力機構から提案されています。熱利用施設の一般産業施設化を成立させるには、インベントリ制御による出力調整運転のうち、特に冷却材から構造物への熱伝達が低下する冷却材低圧条件において、熱利用施設に異常が起き冷却材の温度変動が原子炉に伝播した場合でも、原子炉の安定運転が成立すること、具体的には、原子炉出口冷却材温度がスクラム警報値を超えないことを確証する必要があります。
このため、高温工学試験研究炉(HTTR)を用いた試験データより、RELAP5/MOD3コードによりこの効果を再現できるようにし、原子炉入口温度が変動した場合における原子炉出口温度変動の抑制効果について検討するとともに、冷却材圧力の影響を明らかにしました。さらに実際の接続を想定し、原子炉入口で温度変動があっても制限温度の範囲で運転を継続可能であることを解析により確証しました。
まず、HTTRを使った試験では、検証に必要な原子炉出入口における冷却材温度等のデータを取得しました(図6-8)。HTTRは停止中のため、熱源として、核反応の発熱に代え、ヘリウムガス循環機で生じる圧縮加熱を利用し、原子炉を循環するヘリウムガスを加熱しました。HTTRの運転の制限範囲の中から、原子炉による熱負荷変動吸収特性の圧力依存性を明確に現すため、冷却材圧力として1.1及び2.5 MPaを選定しました。試験では、空気冷却器の除熱量を変えて熱利用施設の異常を模擬し、原子炉入口冷却材温度を6時間で最大30 ℃変動させました。その結果、図6-9(a)の高圧条件で原子炉入口冷却材温度を10 ℃変動させたときの試験結果の例に示すとおり、RELAP5/MOD3コードは原子炉出口温度の試験結果を再現できることを確認しました。
本コードを使って、熱負荷変動吸収特性の圧力依存性を調べました(図6-9(a))。原子炉出口温度の無次元化温度が実験開始後5時間で、低圧条件では約0.5にとどまり、高圧条件で約0.1まで低下したことから、低圧条件において原子炉出口温度が変化しにくいことが示されました。これは、温度変動の緩衝材として原子炉側部金属構造物の熱容量が働きますが、圧力低下に伴う熱伝達率ひいては除熱量の低下により、構造物の温度がさらに変化しにくくなったためです。以上のことから、負荷追従運転で重要となる低圧条件においても、原子炉側の熱負荷変動吸収特性が劣化することがないことを明らかにしました。
次に、HTTRに熱利用施設を接続した運転を想定し、熱利用施設異常時でもスクラムに陥らず、安定運転が成立することを確証するため、原子炉入口冷却材温度が変動した際の原子炉冷却材出口温度の過渡挙動を、上記試験で得た炉側部金属構造材による伝熱効果を使って、数値解析で調べました(図6-9(b))。その結果、インベントリ制御に伴い冷却材圧力を4から3.2 MPaに低下させても、炉内構造物の温度変動は緩慢なため、原子炉出口温度の変動量が原子炉のスクラム警報値に到達することなく、許容変動幅内に抑制できることを示しました。このように、高温ガス炉の負荷追従運転時において、熱利用施設の異常により生じる冷却材の温度変動が原子炉に伝播した場合でも、熱利用施設の一般産業施設化の要件となる原子炉のスクラム警報値を超えない熱負荷変動吸収能力があることを明らかにしました。