図7-9 (a)制御棒、従来型の(b)Heボンド型制御要素、(c)Naボンド型制御要素
図7-10 (a)Heボンド型制御要素と(b)Naボンド型制御要素の外径変化の例
図7-11 制御棒の最大燃焼度と最大外径変化率
制御棒は原子炉内の核分裂反応を制御することで炉出力を調整するとともに、原子炉を停止する際には核分裂の連鎖反応を止める重要な機能を担います。制御要素のペレットであるボロン炭化物(B4C)中のBは中性子を吸収する性質を有しますが、中性子吸収時に(n,α)反応でヘリウム(He)が生成します。このペレット内のHe生成と炉内中の高温環境によりペレットに割れが生じ、破片の再配置(ペレットリロケーション)と照射中の体積膨張(スエリング)が重畳することで、ペレットを包む被覆管を異方的に押し広げる機械的相互作用(Absorber Cladding Mechanical Interaction:ACMI)が生じます。
高速実験炉「常陽」の制御棒(図7-9(a))には、7本の制御要素が装荷されており、Heボンド型制御棒(図7-9(b))には、内部にペレットが収納され、ペレットと被覆管のギャップには気体では熱伝導度に優れたHeが充てんされています。Heボンド型制御要素の使用寿命はACMIで制限され、燃焼度で約50×1026 cap/m3(ペレット1 m3当たり50×1026個の中性子を吸収)でした。
このACMIを抑制するため、Heよりも熱伝導度が900倍以上高い液体金属ナトリウム(Na)をギャップに充てんすることで、ペレットの温度上昇を抑えるとともにギャップ幅を広げ、ペレットリロケーションを抑制するため、ペレットをシュラウド管(薄肉のステンレス鋼管)で包む構造としたNaボンド型制御要素(図7-9(c))を開発しています。
このNaボンド型制御棒を「常陽」において、従来の制限寿命の2倍となる約100×1026 cap/m3まで照射し、その照射挙動を照射後試験にて確認しました。照射後試験で取得した制御要素の寸法変化データの例を、図7-10と図7-11に示します。炉運転時、制御棒は炉心上方に引き抜いて使用されるため、ACMIは、燃焼度、照射量がピークとなる制御要素下側に集中しています。制御要素下部に注目すると、Heボンド型(図7-10(a))と比較してNaボンド型制御要素(図7-10(b))は、高い燃焼度においても外径変化及び異方性が低減し、ACMIは大幅に抑制されていることが分かります。また、Naボンド型制御要素の最大外径変化率については、Heボンド型及びシュラウド管付きHeボンド型よりも低く抑えられており(図7-11)、Naボンド型制御要素が、従来の制限寿命の2倍の長期使用において、優れた耐久性(健全性)を有することが実証されました。
今後は、将来の長寿命制御棒開発に資するデータとして、制御棒内部のシュラウド管及びペレットの状況を確認する計画です。