図8-4 キャピラリー電気泳動法による簡易分析法
図8-5 UO22+用蛍光プローブ(L)
図8-6 ウラニル錯体の電気泳動図
放射性廃棄物を処分するためには、廃棄物中の放射性核種の種類と濃度を把握する必要があり、廃棄物から試料を採取し、分析データを収集することが必要です。分析対象核種のうちウラン(U)の分析では、煩雑な化学分離操作が必須であるため、簡易に分析できるキャピラリー電気泳動法(CE法、図8-4)による分析法の開発を進めています。CE法は、内径0.05 mm、長さ50 cm程度のガラス製毛細管(キャピラリー)の中でイオンを泳動させ、移動速度の違いにより分離する方法で、簡易な装置と極少量の試料で非常に高い分離性能を発揮することで知られています。CE法の検出部には、一般に吸光検出法が採用されていますが、検出限界値がppm程度と感度が不足するため放射性廃棄物分析への適用が難しいという課題がありました。そこで私たちは、千〜百万倍の高感度化が見込める検出法であるレーザーを用いた蛍光検出法(CE-LIF法)に着目しました。
この高感度化が期待できるCE-LIF法を用いるには対象元素に適した蛍光性試薬(蛍光プローブ)が必要ですが、これまでにU(水溶液中ではウラニルイオン:UO22+)に対しては適切な蛍光プローブがありませんでした。そこで私たちは、UO22+用蛍光プローブの開発に挑戦しました。蛍光プローブの基本構造は、①検出感度を向上させるためレーザー光を吸収し、蛍光を発生させる部位(発光部位)、②UO22+と結合する部位、③これらの距離を適切に保つスペーサーで構成しました。このうち、UO22+の検出を左右する鍵となるのは②のUO22+結合部位で、電気泳動中に結合が切断されない強い安定性が求められます。本開発では、結合の手を多数有する化学構造に着目し、電気泳動図を取得して安定性を実験的に評価するとともに、量子化学計算を組み合わせて安定性の原因を解明することにより、UO22+と強固な結合を形成する結合部位を見いだし、蛍光プローブを合成することに成功しました(図8-5)。この蛍光プローブを用いてUO22+を検出した結果を図8-6に示します。本法での検出限界値は0.7 pptであり、従来の吸光検出法に比べて、百万倍以上に感度を向上させることができました。本法を用いて、原子力機構の廃棄物処理施設から採取した廃液試料の分析に適用したところ、様々な共存元素からUO22+を分離検出することができました。本法は煩雑な化学分離操作もなく、10分程度で分析できることから、分析操作の省力化、作業時間の大幅な短縮が期待できます。
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金若手研究(B)(No.16K17926)「キャピラリー電気泳動法による放射性試料中のアクチノイドの超高感度迅速分析法の開発」の助成を受けたものです。