図8-25 通液試験の試料と装置及び亀裂周辺のEPMAによる観察結果
図8-26 通液試験と解析により得られた破過曲線の比較
花崗岩などの結晶質岩は放射性廃棄物の地層処分の候補母岩として多くの国で研究がなされています。亀裂性結晶質岩中の放射性核種の移行は、亀裂中の移流と亀裂に面したマトリクス部への拡散を考慮した二重間隙モデルによって評価されます。この亀裂性結晶質岩中の核種移行モデルを開発する上で、亀裂表面近傍に存在する微細表面変質層は考慮すべき重要な不確実性要因となります。本研究では、スイスのグリムゼル原位置試験場から採取した単一亀裂と表面変質層を含む花崗閃緑岩試料を対象に、室内試験、微細構造分析、モデル化を組み合わせた包括的な研究手法を用いて、天然の不均質な亀裂中で生じる核種移行現象を解明し、それを反映した評価モデルを開発することを目的としました。
通液試験、透過拡散試験、バッチ収着試験からなる室内試験を、異なる移行遅延特性を有する重水(HDO)、セレン(Se)、セシウム(Cs)、ニッケル(Ni)、ユーロピウム(Eu)をトレーサーとして含む模擬地下水を用いて実施しました。一定流量での亀裂中通液試験には、天然の単一亀裂を含む花崗閃緑岩試料を用いました(図8-25(a)、(b))。透過拡散試験とバッチ収着試験は、亀裂表面部とマトリクス部から採取した2種類の試料を対象に、上記と同じトレーサー溶液を用いて実施しました。これらの室内試験結果から、トレーサーの遅延はいずれの試験でもHDO < Se < Cs < Ni < Euの順に大きくなる傾向を示しました。さらに、変質層を含む亀裂周辺の鉱物・間隙分布の不均質性を、X線CT分析や電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)によって分析しました。X線CT像から、亀裂開口部の不均質分布を可視化するとともに、平均的な開口幅を定量化しました。EPMAによって得られた元素分布と、岩石を構成する主要な鉱物の化学組成との比較から、不均質な鉱物分布を評価し、亀裂表面近傍に配向した雲母層が存在すること、さらに亀裂最表面には風化したバーミキュライト層が存在することを確認しました(図8-25(c)〜(e))。
上記の分析によって得られた微細表面変質層の情報に基づき、風化したバーミキュライト層、配向した雲母層、未変質のマトリクス部からなる3層モデル(図8-26(a))を提案し、それぞれの層の厚み、間隙率、収着・拡散特性を、室内試験結果を基に設定して解析を行いました。この3層モデルで微細表面変質層の移行遅延機能を考慮したことによって、従来の二重間隙モデル(未変質マトリクス部のみを考慮した1層モデル)と比較して、通液試験で得られた移行遅延特性の異なる多様なトレーサーの破過データを非常に良く再現することができました(図8-26(b))。
このような亀裂近傍の微細表面変質層が核種移行遅延に及ぼす影響を反映したモデル評価は、地層処分の安全評価の信頼性の向上につながるものです。
本研究は、経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業「高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(処分システム評価確証技術開発)」の成果の一部です。