8-4 浸透流解析におけるマッチング方法の改善

−多層覆土内の浸透流解析の改善に向けた逆解析手法の適用−

図8-11 多層地盤による覆土構造

拡大図(205kB)

図8-11 多層地盤による覆土構造

(a)ウラン鉱山内における鉱山廃棄物の堆積場所を示します。周囲に排水路を設置しています。(b)浸透した雨水と鉱山廃棄物の接触防止を目的とした覆土構造を示します。ベントナイト層(低透水性)は鉱山廃棄物と雨水の接触防止として、礫層(高透水性)はベントナイトにより浸透を防止した雨水の排水として、植生層は礫層の流出を防ぐための保護層としての役割があります。(c)覆土構造を模擬した3層の多層地盤(A:植生層、B:排水層(礫層)、C:ベントナイト層)を数値モデルとして設定しました。

 

図8-12 解析の概要

図8-12 解析の概要

一般的なシミュレーション(順解析)及び逆解析のインプットデータとアウトプットデータを示します。

 

図8-13 逆解析結果

図8-13 逆解析結果

図8-11(c)のNo.1入力点における圧力水頭のマッチング結果を示します。

 


私たちはウラン鉱山の環境負荷を下げ、適切な閉山措置を行うための検討を進めています。その対策の一つとして、鉱山廃棄物と雨水の接触により発生する鉱山廃水を抑制するための覆土処理(図8-11(a)、(b))を行っており、抑制効果を確認するために地下水流れのシミュレーション(順解析)を実施しています。しかし、このような場では、施工に起因する透水係数の不均質性や側方排水量が適切に測定できているか等の要因により、順解析結果と現場での測定値に乖離が発生しやすいことが課題です。その一つの解決方法として、試行錯誤的な順解析によりモデルキャリブレーションを行うことが多くなされていますが、主観が入りやすいという一面があり、より客観性を持ったインプットパラメータの設定方法が求められていました。一方、図8-12に示すように、逆解析では既知である水圧分布を基に、インプットパラメータとなる透水係数及び側方排水量を同時に推定することで、主観性を排除するとともに効率的なキャリブレーションに有効であると考えられることから、逆解析数値実験を行いました。逆解析数値実験では、高速計算を可能とする準ニュートン法とAdjoint法を組み合わせたアルゴリズムを導入した逆解析手法を適用しました。なお、このような場で、考慮すべき飽和・不飽和浸透流に対して本手法を適用することは初めての例となります。この逆解析の有効性を確認するために、あらかじめ順解析により水圧分布(正解値)を計算し、その正解値を用いた逆解析により求めたい透水分布と側方排水量を計算しました。この方法で得られたパラメータを用いて順解析を行ったところ、正解値を適切に再現していることから(図8-13)、同時逆解析手法を用いることで不確実性の高いこれらのパラメータを推定する道筋を得ることができました。

本手法を用いることで順解析に必要なインプットデータを得られるため、地上からは見ることができない地下水流れの理解向上につながることが考えられます。さらに、今回の数値実験の手法を実際の覆土構造に適用することで、雨水の浸透抑制効果の確認が可能となるため、合理的、効果的な覆土に資することが今後期待されます。