8-5 地下水中の酸化還元電位の不確かさ評価

−幌延地域での水質観測データに基づく適用事例−

図8-14 幌延深地層研究センター地下施設内のボーリング孔で観測されたpH及び酸化還元電位(Eh)の経時変化

図8-14 幌延深地層研究センター地下施設内のボーリング孔で観測されたpH及び酸化還元電位(Eh)の経時変化

(a)はpHの経時変化を、(b)はEhの経時変化を示します。

 

図8-15 幌延の地下水におけるpH-Ehダイアグラム

図8-15 幌延の地下水におけるpH-Ehダイアグラム

各反応の平衡電位が取り得る領域をそれぞれ赤・青・緑で示します。エラーバーの範囲は±50 mVです。

 


地下水の酸化還元状態は、酸化還元に鋭敏な放射性核種の溶解度やオーバーパックの腐食速度に影響を与えることから、地層処分において考慮すべき地球化学特性の一つです。地下水中に存在する酸化還元に鋭敏な化学種は、酸化還元電位(Eh)の測定値に関して非平衡であったり、一部のみが平衡状態であったりするのが一般的です。そのため、地下水の酸化還元状態を支配すると考えられる反応の平衡電位と変動幅を算出し、その値とEh測定値との差を比較することで、Ehがどの程度の変動幅を取り得るかの推測が可能と考えられます。

本研究では、幌延深地層研究センターにおける地下水の水質データを事例として、Ehの不確かさに関する評価を試みました。地下水中のpH及びEhの経時変化を図8-14(a)(b)に示します。深度250 m調査坑道の250-M02孔の区間1(#1)では、pHが7.1、Ehが-200〜-170 mVの範囲を示しました。深度350 m調査坑道に掘削された3本のボーリング孔(350-C05#2、350-C06#1、350-C08#2)では、pHは6.2〜7.0、Ehは-270〜0 mVの範囲を示しました。なお、ボーリング孔掘削以降の化学成分濃度の顕著な変化や、ボーリング孔に隣接する試験坑道の掘削が地下水水質に与える直接的な影響は確認されませんでした。

観測値を基に、幌延の地下水におけるpH-Ehダイアグラムを作成しました(図8-15)。図中の黒丸は観測値を、3本の直線は、地下水中の化学成分濃度から想定した、酸化還元状態を支配すると考えられる三つの酸化還元反応の平衡電位を表しています。各線の上下に色をつけた領域は、化学成分濃度や水温の変化を考慮して、それぞれの平衡電位が取り得る値の幅を示したものです。観測値と平衡電位との差は、図にエラーバーで示しているように、おおむね±50 mVの範囲に収まります。国内外の既往研究の成果も考慮すると、酸化還元電位の測定値として±50 mV程度の不確かさを設定することは妥当性が高いと考えられます。なお、この不確かさには、観測装置が有する測定誤差のほか、電極の劣化、地下水から遊離したガス(気泡)の電極への付着などの影響が考えられます。また、350-C06孔の一部のデータは、他の孔と比べてEhの変動が大きい(図8-14(b))ことから、酸化還元反応に関して平衡状態にないことが示唆されます。

今後もデータを継続的に取得するとともに、遊離ガスの影響など、測定に関する誤差の低減方法を検討する予定です。