8-6 坑道掘削後の岩盤の透水性を事前に予測する

−Mean Stress Indexの適用による予測手法の提案−

図8-16 透水試験実施箇所及び試験レイアウト

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図8-16 透水試験実施箇所及び試験レイアウト

3本の調査用のボーリング孔(H2-1孔、H3-2孔、H4-2孔)を掘削し、パッカーにより試験区間を区切りました。H2-1孔の区間5及びH4-2孔の区間5はEDZの側壁面を、H3-2孔の区間3及び区間4はEDZの底盤部を対象としています。

 

図8-17 試験坑道3掘削直後の坑道周辺の有効応力分布

図8-17 試験坑道3掘削直後の坑道周辺の有効応力分布

圧縮応力を正、引張応力を負としてコンター表記しています。

 

図8-18 掘削影響領域において計測された透水係数と、解析により予測された透水係数の上限値の範囲

図8-18 掘削影響領域において計測された透水係数と、解析により予測された透水係数の上限値の範囲

EDZで実際に測定された透水係数の結果()は、MSIモデルにより予測される透水係数の上限値の幅()の範囲に内包されます。

 


高レベル放射性廃棄物の地層処分では、処分坑道等の地下空洞の掘削に伴う応力再配分により、坑道周辺に割れ目が発達し、透水性の増大が予想されます。この領域は掘削影響領域(Excavation Damaged Zone: EDZ)と呼ばれ、廃棄体埋設後の放射性核種の移行経路となることが懸念されています。そこで、地層処分の安全評価の効率化に資するために、地上からの調査により得られたデータによってEDZの透水性を予測する手法の開発が重要となります。

これまで、解析的にEDZの透水性を求める手法が開発されてきていますが、坑道周辺の割れ目の発達による岩盤の透水性の増大を、地上からの調査で得られるデータによって予測できるモデルは構築されていません。

ただし、断層や既存割れ目の透水性の上限値は、地上からの調査で得られる平均有効応力を、岩盤の引張強度で除したパラメータであるMean Stress Index(MSI)を適用した経験式(MSIモデル)で予測できることが分かっています。そこで、EDZの透水性の上限値の予測にもこのモデルが適用可能かどうかを、幌延深地層研究センターの深度350 mに掘削された試験坑道3(図8-16(a))を対象として検討しました。

最初に、透水係数の実測値を得るための透水試験を、図8-16(b)及び(c)に示すレイアウトで実施しました。次に、水理・力学連成解析により試験坑道3の掘削を再現しました。解析により得られた掘削後の有効応力分布を図8-17に示します。この有効応力値と岩盤の引張強度の情報を基に、MSIモデルにより各透水試験区間の透水係数の取り得る上限値の範囲を予測しました。

これらを比較した結果を図8-18に示します。MSIモデルによる透水係数の予測値は、岩盤中の割れ目部の不均質性の影響を考慮しているため、2.5オーダーの幅(図8-18の範囲)を持たせています。図8-18より、EDZで実際に測定された透水係数()は、MSIモデルにより予測される透水係数の上限値の範囲に内包されます。このことから、MSIモデルを適用することで、EDZの透水係数の上限値を地上から予測できることを示すことができました。