図8-19 ウミツボミのイメージング分析結果
図8-20 ウミツボミの年代測定結果(コンコーディア図)
カルシウム炭酸塩(以下、炭酸塩)は、岩種や岩盤の形成過程に依存せずに、岩盤中に普遍的に産出するため、古環境指標物質として利用可能です。特に、岩石の割れ目を充てんするように存在する炭酸塩は、過去の地下水から沈殿して生成され、その年代情報は地下水流動経路の変遷の解読や、過去の断層運動の解明などにも大きく寄与すると期待されます。
炭酸塩が地下環境において、段階的に成長した場合、その内部には微細な累帯構造が形成されることがあります。したがって、年代測定を実施する際にはマイクロメートル程度の高い空間分解能で分析する必要があります。本研究では、局所分析手法の一つであるレーザーアブレーション(LA)装置と誘導結合プラズマ(ICP)質量分析装置を組み合わせたLA-ICP質量分析法によるウラン(U) 鉛(Pb)年代測定手法の開発を行いました。本手法による炭酸塩の年代測定では、分析可能な領域の選定(U濃度の低い炭酸塩をどのように分析するか)及び分析値の校正に必要な標準試料の欠如が課題でした。
本研究では、炭酸塩の年代測定に適正な領域を事前に把握することを目的として、試料中の元素や同位体の分布情報を取得できるイメージング分析を行いました(図8-19)。また、標準試料については選定・開発を進め、既往研究*により標準試料候補として提唱されたWC-1(アメリカ南西部Delaware盆地・上部ペルム系・炭酸塩岩脈から採取)を採用しました。本研究の手法の妥当性を検証するため、生息年代が既知である炭酸塩示準化石を分析対象とし、ペルム紀(約299〜251 Ma)(Ma:100万年前)に絶滅した棘皮動物のウミツボミ(アメリカオクラホマ州産Pentremites:化石年代339〜318 Ma)を用いました。
ウミツボミについて、U-Pb同位体分析を実施したところ、332±15 Ma(1σ)が得られ、化石年代339〜318 Maと良い一致を示し(図8-20)、局所分析による炭酸塩の年代測定に国内で初めて成功しました。さらに、本研究では、標準試料を必要としない分析条件の検討も行い、窒素ガスをICPに導入する条件下では、標準試料が不要となる可能性も示唆されました。
今後は、地下水流動の変遷の解明や断層の活動性評価など、地層処分に係る地質環境の長期安定性評価へと応用するため、適用できる年代範囲の検証や、年代測定の精度向上など分析技術の高度化を行っていきます。
本研究は、経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業「地層処分技術調査等事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」及び「高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」の成果の一部です。
*Roberts, N. M. W. et al., A Calcite Reference Material for LA-ICP-MS U-Pb Geochronology, Geochemistry, Geophysics, Geosystems, vol.18, issue 7, 2017, p.2807–2814.