図8-21 本研究で用いた(a)電子プローブマイクロアナライザと(b)試料の例
図8-22 本研究で用いた土岐砂礫層の試料を採取した地点とその周辺地域の地質概略図
地層処分においては、過去に起きた地下環境の変化を明らかにし、その傾向から将来の地下環境の変化を推定する必要があります。山地の形成は、特に地下水の流れなどに影響を及ぼす可能性があり、結果として地層処分システムに影響を与え得るため、山地の形成過程に関する情報を得ることは重要です。
山地を構成する岩石は風化などによって岩石片や鉱物粒子になり、それらが運搬され集積することにより堆積物が形成されます。このような堆積物は元の岩石の情報を保持している場合が多く、堆積物の供給源とその変化を推定する後背地解析により、山地の形成過程を解明できる可能性があります。後背地解析では、堆積物とその起源である岩石とを、何らかの物質を指標として対比することが基本となります。ところが、一般的に行われている鉱物を指標とした後背地解析では、鉱物鑑定の専門知識や経験が必要であり、また多大な時間を要するという課題がありました。そのため本研究では、専門的な知識や経験が無くても鉱物を利用した後背地解析を効率的に行うことのできる手法を開発しました。具体的には、堆積物及び供給源と考えられる複数の岩石から多数の鉱物を取り出し、それらの化学組成を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA、図8-21(a))により1粒子ずつ分析しました。後背地解析では、多量の鉱物粒子を分析することが必要なため、分析の際には測定時間を可能な限り短くできるように分析条件を設定し、1粒子当たり約3分半で分析することができるようにしました。このEPMAによる分析は自動で何粒子も連続して行うことができるため、従来のように作業者が1粒子ずつ確認しなくても一度に多量の鉱物粒子(図8-21(b))の化学組成データを得ることができます。このようにして得られた全ての化学組成データを汎用的な表計算ソフトで集計し、既存データと比較することで測定した鉱物を迅速に同定できるようにしました。
さらに私たちは、開発した手法の有用性を確認するため、岐阜県東濃地域に分布する堆積物(東海層群土岐砂礫層)にこの手法を適用しました。その結果、本研究の試料採取地点に供給された堆積物の起源が、濃飛流紋岩類から苗木・上松花崗岩に変化していったことが分かりました(図8-22)。このことは、過去に付近の断層(阿寺断層)の地形学的研究によって推定された、この地域の地形・地質の分布の変化・時期と整合的です。したがって、本手法の実用化への見通しを得ることができました。
この成果は、後背地解析技術の効率化、つまり地下環境の将来的な変化を推定する技術の高度化に寄与するだけではなく、山地の形成過程の解明など、地球科学分野の研究の発展にも貢献が期待できます。
本研究は、経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業「地層処分技術調査等事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」の成果の一部です。