1-3 マイクロ波によりプラズマ発光強度を50倍に増倍

−レーザー誘起ブレークダウン分光分析技術を用いた燃料デブリの遠隔分析技術の高度化−

図1-6 (a)マイクロ波の電極と(b)(c)プラズマ発光の様子

図1-6 (a)マイクロ波の電極と(b)(c)プラズマ発光の様子

(a)外径約6 mmの半剛性の同軸ケーブルの芯線に直径約0.6 mm、長さ25 mmの導線を接続し、スパイラル状にしました。(b)はマイクロ波の入力が無い場合、(c)はマイクロ波を入力した場合で、発光が強くなっているのが分かります。

 

図1-7 発光スペクトル(試料は酸化ガドリニウム)

図1-7 発光スペクトル(試料は酸化ガドリニウム)

 線はレーザー照射のみでマイクロ波が無い場合、 線はマイクロ波を入力した場合で、発光量が約50倍増倍しました。

 


東京電力福島第一原子力発電所事故で発生した燃料デブリは放射線が強く、人が近くで操作することは困難です。また、遠隔操作により燃料デブリのサンプルを採取し、分析施設へ輸送して分析をするには時間と多大な作業を伴います。一方、遠隔操作により、その場で燃料デブリを分析することができれば、この分析作業が非常に効率的になると考えられます。そのため、私たちは炉内におけるその場分析を可能とする技術としてレーザー誘起ブレークダウン発光分光分析法(Laser-Induced Breakdown Spectroscopy:LIBS)の開発を行っています。

LIBSの技術は、高エネルギーのパルス状のレーザーを分析対象の試料表面に照射し、発生するプラズマの発光を、分光器を用いて波長スペクトルを解析し、試料表面に含まれる元素を同定する分析手法です。炉内へのレーザーの伝送方法としては操作性が容易な光ファイバーを使います。燃料デブリ中のランタノイド等の元素を分析するためには、高分解能の分光器が必要になりますが、この分光器を通過した光は弱くなってしまいます。光が弱くなるとノイズに埋もれて検出できなくなるため、発光自体を増強することが必要になります。レーザーの出力を上げると発光強度は大きくなりますが、同時に光ファイバーの損傷につながるため、このやり方では思うように発光強度を上げることができません。

そこで、私たちは新たな方法として、レーザー出力を上げるのではなく、マイクロ波を導入することで、プラズマの発光強度を補うことを考案しました。マイクロ波によりプラズマ発光を長時間持続させ、時間積分することで発光量を稼ぐのです。従来、マイクロ波を伝送するのに伝送損失が少ないことから金属製の導波管を使っていましたが、導波管は自由に曲げられず、炉内などの狭い場所に伝送するのは困難です。そこで、損失が多少あっても小型化や自由度を優先して、曲げられる同軸ケーブルを用いることにしました。また、プラズマとの相互作用部で、マイクロ波の電場を高くするため従来用いられていた共振器を無くし、ケーブルの先端に付けた電極をプラズマに近づけるだけの手法を考案しました。これによりシステムがシンプルになり、自由度も高く操作性も良いシステムを構築できました。

図1-6(a)は試作した電極で、外径が約6 mmの半剛性の同軸ケーブルの先端の芯線に25 mm程度導線を付け、スパイラル状に巻いています。巻かなくても増倍効果は得られますが、巻いた方が、先端がふらついたりせず、安定でしかもコンパクトになると考えました。図1-6(b)(c)は電極の先端で発光している様子を示したもので、マイクロ波を入力すると発光が強くなっているのが分かります。図1-7は取得した発光スペクトルの例で、導入したマイクロ波はピーク出力1.3 kW、パルス時間幅1 msです。マイクロ波を入れない場合は、プラズマの発光は約10 μs程度で消滅しますが、マイクロ波を入力することで数100 μs〜1 ms程度まで発光を持続することが可能となりました。この効果によりマイクロ波を入力しないときの約50倍の発光量が得られました。コンパクトでシンプルかつ高感度・高分解能なシステムへ一歩前進しました。

(大場 正規)