図1-3 (a)コールドクルーシブル誘導加熱炉の外観、(b)模擬燃料デブリの断面写真
図1-4 模擬燃料デブリ中の凝固進展(模式図)
図1-5 模擬燃料デブリ試験体断面での高さ方向の(a)Feの組成変化、(b)Gdの組成変化
東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故では、核燃料や構造材(主成分:鉄(Fe))等から構成される溶融物が発生し、ゆっくりと固まって燃料デブリを形成したと考えられています。溶融物がゆっくりと凝固する場合、そこに含まれている成分の偏析が起こることが知られています。核燃料の一部には、可燃性毒物(Gd2O2)を含有した二酸化ウラン(UO2)燃料ペレットが使用されており、燃料デブリ中のGdの分布状況を把握することは臨界安全の観点から非常に重要です。また、燃料デブリ中には多くのFeが含まれることが考えられ、中性子吸収材としての役割を担うことから、その分布状況を知ることも重要です。
燃料デブリ中のGd及びFeの偏析状況を調べるため、約1kgの模擬燃料デブリ(主要成分:UO2, ZrO2, Gd2O2, FeO、模擬核分裂生成物成分:MoO3, Nd2O3, SrO, RuO2)をコールドクルーシブル誘導加熱炉(図1-3(a))で溶融・凝固する試験を行いました。試験中、溶融物を少しずつ発熱源から下方向に引き抜くことによって、ゆっくりとした凝固条件を再現しました。
図1-3(b)は、凝固後試料の断面写真です。試料下部の領域1では層状の構造が確認され、試料上部の領域2では複数の大きな空洞が観察できます。図1-4に凝固の様子を模式的に示します。試験体下部から少しずつ凝固が始まり、領域1の層状構造が形成されたと予測されます。次に、上部表面が凝固し、中心に向かって空洞を形成しながら凝固していったと考えられます。また、最下部にはRu金属の析出が確認されました。
次に、試験体断面の中心軸に沿って、上部から下部にかけてサンプリングを行い、元素分析を行いました。図1-5には、試験体の高さ位置に対する模擬デブリ中のFe及びGdの組成変化がプロットされています。Feは高さ2.7 cmで最大値3.5at%を示しています。この領域は最後に凝固した位置に近く、Feは燃料デブリ中で最後に凝固する内部に偏析することが予測されます(図1-5(a))。一方、Gdは高さ0.5 cmで最大値2.4at%を示しています。この領域は初期に凝固した試験体下部にあり、Gdは燃料デブリ中で初期に凝固する外側に偏析することが予測されます。Gd含有燃料は実機中に約1%と非常に少なく、少しの偏析が再臨界に大きく影響することが考えられます(図1-5(b))。
今回、約1 kgの試験体での試験を行いましたが、実際の1F燃料デブリは数十tとも言われ、試験体と実燃料デブリの間には大きなスケールのギャップがあります。今後は、より大規模な試験体(約10 kg規模)での実験データを取得しつつ、成分偏析に対する数値解析を組み合わせることによって、より信頼性の高い燃料デブリ中の成分偏析データを取得し、燃料デブリ取出しに役立てていきたいと考えています。
本研究は、原子力機構とジェシュ研究所との共同研究「溶融コリウムの凝固メカニズムに関する予備試験」により実施され、日本とチェコとの良好な原子力研究協力関係の一例として、Japan Timesで記事となりました。
(須藤 彩子)