1-1 水中における燃料デブリからのウランの溶出を評価

−コンクリート成分の影響を考慮した溶出速度評価と、使用済燃料との比較−

図1-2 溶出試験に使用した模擬燃料デブリ試料の外観と断面の観察像

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図1-2 溶出試験に使用した模擬燃料デブリ試料の外観と断面の観察像

溶出試験には、以下の2種類の模擬燃料デブリを使用しました。これらを用いた溶出試験の結果、コンクリート成分の有り/無しで、溶出速度は2.53 mg/m2/dから2.86 mg/m2/dと変動するものの、使用済燃料の溶出速度と比較して同程度と判断されました。
(a)コンクリート成分無し:U、Zr、Fe、希土類等を含む試料を還元雰囲気(Ar-H2)下、2760 ℃で約45分加熱して作製しました。
(b)コンクリート成分有り:U、Zr、Fe、希土類に加えコンクリート成分としてSi、Ca、Mgを追加した試料をN2雰囲気下、2000 ℃で約10分間加熱して作製しました。それぞれ左側が外観写真、右側が断面の光学顕微鏡の写真です。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)の燃料デブリは原子炉から取り出した後、冷却のために湿式状態で輸送・保管されると考えられますが、その間、燃料デブリは水中に浸漬されることになります。そのため、燃料デブリ中の成分、特にウラン(U)などの核燃料物質の水中への溶出挙動を把握することが、燃料デブリの水中保管を評価する上で重要となります。しかし、水中でのU溶出速度に関する既往のデータは少なく、また、燃料デブリに関するデータはありませんでした。そのため、私たちは模擬燃料デブリを用いた溶出試験を行い、燃料デブリからのU溶出速度データを取得することとしました。

試験に使用した模擬燃料デブリの試料を図1-2に示します。1Fの燃料デブリには圧力容器内で生成する燃料と構造材の溶融物、格納容器下部にて生成する溶融燃料とコンクリートとの反応物(MCCI生成物)の2種類が想定されます。そのため、試料にはコンクリート成分の有り/無しの2種類を用いました。

試験では、模擬燃料デブリを約25 ℃の純水に浸漬し、γ線照射(Co線源、線量約80 Gy/h)しながら空気雰囲気下で約100日静置しました。γ線照射は、溶出速度に影響することが予想される過酸化水素を水の放射線分解により発生させるために行いました。さらに、γ線の影響による空気中の窒素(N2)からの硝酸生成を制限するため、試験でのガス相と溶液相の体積比を約0.1としました。

試験後の溶液を分取し硝酸を加えることにより、水中のコロイドを溶解した後、ICP-MSを用いて溶液中のU濃度を分析しました。また、沈殿物の分析としては、溶液を取り出した後の容器や試料ホルダーを0.5 N硝酸に24 h浸漬し、その溶液中のU濃度を分析しました。これらの濃度分析の結果より水中及び沈殿したUの総量を求め、これらの和を溶出量として評価しました。また、溶出量を試験前に測定していた各試料の表面積と浸漬期間で割ることで溶出速度を算出しました。なお、これらの試験はフランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)の協力を得て、CEAのATALANTE施設で実施しました。

試験の結果、コンクリート成分無し、コンクリート成分有りでのUの溶出速度は、それぞれ2.86 mg/m2/d、2.53 mg/m2/dと、コンクリート成分の有無にかかわらず、近い値が得られました。また、水中での使用済燃料からのUの溶出速度については、既往の研究から2 mg/m2/d、83 mg/m2/dの値が報告されており、溶出速度にはこの程度のばらつきがあることが分かります。そのため、本研究で得られた模擬燃料デブリの溶出速度は、使用済燃料のUの溶出速度と大きな差はないと考えました。

以上のことから、1Fの燃料デブリの溶出速度はコンクリート成分の有無にかかわらず、使用済燃料の溶出速度と同程度と想定されます。そのため、1Fの燃料デブリについて、湿式での輸送・保管を検討する場合、使用済燃料用の装置や設備が参考になると考えられます。また、本研究により得られたU溶出速度データは輸送や保管のほか、燃料デブリの取出しや処分の検討など、燃料デブリが水と接触する機会がある様々な場面に対して、Uの溶出挙動を評価する基礎データとして活用できます。

(仲吉 彬)