図2-6 反応度事故(RIA)時に被覆管に発生する応力の状態
図2-7 二軸荷重負荷試験装置の概要
図2-8 加圧水型軽水炉(PWR)用ジルカロイ–4製被覆管の変形異方性
発電用軽水炉施設が安全に設計されていることを確認するための想定事故の一つに反応度事故(RIA)があります。RIAは、何らかの原因で制御棒が炉心から急速に引き抜かれて原子炉の出力が急激に上昇する事故で、この事故の際、燃料棒内ではペレットが急激に温度上昇・熱膨張することで被覆管を内側から急速に押し拡げる「ペレット被覆管機械的相互作用(PCMI)」が生じ(図2-6)、燃料が破損する可能性があります。安全性の確認は破損する燃料の評価本数に基づくため、その信頼性には燃料の壊れやすさの評価精度が影響します。PCMI下では、被覆管は軸及び周方向に同時に発生する応力(二軸応力)の影響で自由に変形しづらい状態となり壊れやすさが変化すると考えられていましたが、RIA条件に対応する系統的なデータの取得が難しく、これまで知見が限られていました。
そこで、東京農工大学桑原教授ご協力の下、同教授ら*が開発した軸方向の応力比(以下、応力比)を制御可能な二軸荷重負荷試験装置を基に新しい試験装置を製作しました(図2-7)。装置製作に際しては、新しい治具の開発と制御プログラムの最適化を行い、被覆管のような細い管状試料に対して、RIA時に想定される応力比(0.5〜1)をカバーする範囲での変形挙動データ取得に成功しました。応力比と被覆管の塑性変形のしやすさとの関係をプロットしたところ(図2-8)、等方性材料の場合に比べ右上方向にやや伸びた形状となりました。ジルカロイ–4製被覆管内部の結晶組織状態も調べ、やや伸びた形状の原因が、製造時に結晶組織をある方向に揃えたことで生じる軸及び周方向の塑性変形しやすさの違いにあることを明らかにしました。また、本研究で初めて取得した変形異方性のデータに基づき、二軸応力条件における被覆管の降伏及び変形の進行に伴う硬化を表現できる機械特性モデルを新しく提示しました。
上記の機械特性モデルは、長期使用された燃料のRIA時破損に関するコンピュータシミュレーションに活用され、シミュレーションで得られた知見は、安全評価のさらなる信頼性及び合理性の向上を目指して、原子力機構が最近提案した新しいPCMI破損しきい値に反映されています。
本研究で実施した二軸荷重負荷試験は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「平成27年度原子力施設等防災対策等委託費(燃料等安全高度化対策)事業」として行われたものです。
(三原 武)
* Kuwabara, T. et al., Yield Locus and Work Hardening Behavior of a Thin-Walled Steel Tube Subjected to Combined Tension-Internal Pressure, Journal de Physique IV, vol.105, 2003, p.347–354.