3-1 核分裂片の巨大双極子振動を観測

−核分裂過程の解明に期待−

図3-2 核分裂片の生成過程(a)とその脱励起過程(b)(c)

図3-2 核分裂片の生成過程(a)とその脱励起過程(b)(c)

通常は中性子を放出した後にγ線が放出されますが(b)、本研究では中性子を放出することなく高エネルギーγ線が放出される過程(c)があることが分かりました。

 

図3-3 γ線エネルギースペクトル

図3-3 γ線エネルギースペクトル

が今回得られた測定値、が過去の測定値をそれぞれ示します。線は通常の脱励起過程から予測されるスペクトルで、データから 15 MeV程度にピークを持つ成分があるのが分かります。

 


ウラン235の中性子入射核分裂は、原子力発電のエネルギー源として利用されています。核分裂が起きると二つの核分裂片が生成され、核分裂片から中性子とγ線が放出されます。中性子は別の核分裂を引き起こすことで連鎖反応の維持に使われ、γ線のエネルギーは周辺の物質に吸収されることで原子炉全体の約3%の発熱量を担っています。そのため、これらの核分裂当たりの数やエネルギースペクトルのデータは、原子炉の安全性の向上に重要です。

核分裂片から中性子とγ線がどのように放出されるかを示したのが、図3-2です。核分裂が起きた瞬間、核分裂片は高励起状態にあります。通常は、中性子を優先的に放出することで励起エネルギーを失い、中性子を出せなくなると残りのエネルギーをγ線が持ち出すと考えられています。この考え方によれば、中性子を出すのに必要なエネルギー(およそ7 MeV)より高いエネルギーのγ線は放出されないことになります。実際にウラン235の中性子入射核分裂においては最大でも7 MeVまでのγ線しか測定されていませんでした。一方、私たちはより高いエネルギーのγ線が放出される可能性に着目しました。このため、従来よりも10万倍感度が高い測定装置を開発して、図3-3に示すように最大20 MeVまでのγ線を観測することに成功しました。図を見ると、従来の考え方による直線的な成分と比べて、12 MeVを超える領域でスペクトルが膨らんでいることが分かります。これは、中性子を放出することなく多くの励起エネルギーをγ線のみで失うメカニズムがあることを示しています。

理論模型を用いた解析からこのような高いエネルギーのγ線は、核分裂片内で陽子と中性子の集団が互いに逆位相で動く巨大双極子振動状態が出現しており、その状態の脱励起に起因していることが分かりました。このような状態は原子核が高いエネルギーのγ線を吸収する際に現れることがよく知られていますが、本研究では核分裂、すなわち原子核が二つに分かれる瞬間に現れた振動状態を観測しており、振動状態の特異な出現の仕方を捉えたと言えます。このように高エネルギーγ線の起源は核分裂のメカニズムを反映しており、その測定は核分裂過程の解明にもつながると考えています。

本研究は、文部科学省の国家課題対応型研究開発推進事業による課題「新たな未臨界監視検出器を目指した核分裂高エネルギーガンマ線の測定」の助成を受けたものです。

(牧井 宏之)