4-8 加速器駆動システム用ビーム窓の開発

−国際プロジェクトによるビーム窓材の照射後試験−

図4-17 MEGAPIE(MEGAwatt PIlot Experiment)の概要

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図4-17 MEGAPIE(MEGAwatt PIlot Experiment)の概要

MEGAPIEは、LBEが流動する条件でターゲットに陽子を照射し、ターゲットから試験片(改良9Cr–1Mo鋼(T91))を切り出します。材料の照射後試験は、参加国で分担して実施しています。

 

図4-18 未照射材の伸びとt/wの関係

図4-18 未照射材の伸びとt/wの関係

t/wが影響しない一様伸びに対し、全伸びはt/wの増加とともに増加します。図中に示すゲージ部が十分長い場合の補正式は、ゲージ部が短い本研究の試験片には適用できないことが分かります。

 

図4-19 照射材の全伸びと照射量の関係

図4-19 照射材の全伸びと照射量の関係

t/wの違いによる全伸びの差は、照射量の増加とともに小さくなることも分かりました。これは照射により材料中に導入された照射欠陥により、変形挙動が異なってくるためと考えられます。

 


使用済燃料中の長寿命放射性物質を陽子加速器による核変換によって短寿命化する加速器駆動システム(Accelerator–Driven Systems:ADS)のビーム窓部は、高温の鉛ビスマス共晶合金(LBE)の腐食など過酷な環境にさらされるだけでなく、投入する陽子や核破砕中性子の照射により深刻なダメージを受けるため、事前に構成材料のダメージを評価しておく必要があります。しかし、このような特殊な条件で試験を行うには世界においてもごく限られた設備しかできません。このため、設計に必要な材料の照射データベース構築を目的とした国際プロジェクト(MEGAwatt PIlot Experiment:MEGAPIE)が立ち上がりました。

このプロジェクトでは、図4-17に示すようにスイスのポール・シェラー研究所の加速器でLBEが流動する条件でターゲットに陽子を照射し、材料の照射後試験は参加国で分担して実施しています。照射後試験では、ターゲットから試験片(改良9Cr–1Mo鋼(T91))を切り出して機械的な特性変化を調べますが、切り出した試料は厚さが標準試験片の2倍以上あることに加えて曲面があるため、標準試験片の形状と大きく異なります。このため、この特殊形状の試験片から有用なデータが得られるかを検証するため、未照射試験片の引張強度について、形状効果に関する系統的な試験研究を行いました。従来の引張試験片の形状効果に関する研究では、板厚効果を調べたものなどがありましたが、いずれもゲージ部が十分に長い場合であり、今回はMEGAPIE試験片同様のゲージ部が短い試験片で実施しました。

この結果、強度と一様伸びは標準試験片と同様な結果が得られましたが、全伸びに関しては1.5〜2.0倍大きな値を示しました。このため、引張特性に対するゲージ部の厚さと幅の比(t/w)の影響を調べたところ、全伸びは、t/w=1になるまでゲージ部の厚さの増加とともに大きくなることが分かりました(図4-18)。また、ゲージ部が十分長い標準試験片に対する補正する式が本試験片には適用できないこと、照射量の増加とともに全伸びが小さくなる割合が標準試験片よりも大きいことも分かりました(図4-19)。このため、形状の違いと照射による伸びの低下の両方を考慮した新しい補正式を提案しました。なお、今回の照射では、LBEとの接触による効果は見られませんでした。これは、照射温度が比較的低かったためと考えられます。このようにADSをはじめとする加速器照射材の研究では、特殊形状の試験片の使用が不可避であるため、本研究の成果は今後のADSの設計や照射材の照射後試験を行う上で有用な知見となりました。

(斎藤 滋)