4-7 加速器駆動システムの核設計精度を検証する

−プルトニウム燃料を用いた臨界実験−

図4-15 臨界実験装置COMETの外観図

図4-15 臨界実験装置COMETの外観図

米国のNational Criticality Experiments Research Center(NCERC)にあるCOMETの外観図を示します(https://www.nnss.gov/pages/facilities/NCERC.html)。

 

図4-16 鉛ボイド反応度価値の実験値と解析値の比較

図4-16 鉛ボイド反応度価値の実験値と解析値の比較

は実験値、 は原子力機構で開発された評価済み核データライブラリ(JENDL-4.0)、は米国の核データライブラリ(ENDF/B-VIII.0)を用いた解析値です。各国で開発された鉛の核データライブラリの精度が、一連の実験によって検証されました。

 


原子力発電所から排出される使用済燃料を再処理した後の高レベル放射性廃棄物処分の負担軽減を目指して、放射性毒性が強い長寿命核種を分離し、中性子との核反応で核分裂させることで、安定又は短寿命の核種に変える核変換専用のシステム(加速器駆動システム:ADS)の研究開発が進められています。ADSでは、冷却材として化学的に安定な鉛ビスマス合金を使用しますが、我が国では原子力分野で鉛ビスマスを冷却材として使用した経験は無く、これらの核種の核反応の特性(核反応断面積)が十分に検証されていません。そこで、本研究では米国の臨界集合体(図4-15)を用いて、ADSと同様の高速中性子体系で鉛の核反応断面積を検証するための新たな実験データをプルトニウム(Pu)燃料を用いて取得しました。

ADSでは、鉛ビスマスの核破砕で発生した高速中性子は冷却材の鉛ビスマスとの核反応で徐々に減速され、その過程で核燃料に吸収されて核分裂を起こします。核分裂で発生する高速中性子も同様の減速過程を経て次の核分裂に使われます(核分裂連鎖反応)。したがって、ADS中の中性子を媒介とした核分裂連鎖反応を正確に予測するためには、特に影響の大きい冷却材中の鉛と中性子の核反応断面積を精度良く評価することが重要です。高速中性子体系において、235Uを多く含む高濃縮ウラン(HEU)燃料は鉛に減速された中性子の方が核分裂を起こしやすく、238Uを多く含む低濃縮ウラン(LEU)燃料は減速されていない高速中性子の方が核分裂しやすいため、この核分裂連鎖反応が起こる様子は、使用する燃料の種類によって異なります。そこで、これまでに、典型的な二つの実験体系(HEU/鉛実験体系、LEU/鉛実験体系)を構築し、それぞれの実験体系の鉛を段階的に除去(ボイド化)することで、鉛で減速される中性子量の減少が核分裂の連鎖に与える影響度(鉛ボイド反応度価値)を測定してきました。今回新たにHEUとLEUの間の特性を持つPu燃料を用いたPu/鉛実験体系で同様の測定を実施し、系統的な実験データの拡充を目指しました。

高速中性子体系中のPu燃料は、鉛によって減速された中性子の方が核分裂を起こしやすいため、Pu/鉛実験体系において鉛を除去したことで、減速される中性子が減って核分裂の連鎖が起こりにくくなり、負の鉛ボイド反応度が観測されました(図4-16)。この測定結果と、日米双方で評価されている核反応断面積データ(核データ)を用いた解析値を比較した結果、Pu/鉛実験体系では、米国の核データは実験誤差の範囲内でよく一致することが確認されましたが、日本の核データは絶対値で20%以上実験値を過大評価することが分かりました。この日米の核データの差をさらに分析した結果、鉛に起因するものではなく、Puの同位体である239Puの核データの差に起因するものであることが確認されました。よって、全ての実験体系に対し鉛の核データの妥当性が検証され、かつ日本の239Puの核データに改善の余地があることが明らかとなりました。

今回、新たにPu燃料を用いた実験が行われたことで、鉛の核反応断面積を多角的に評価できる、世界でも類がないデータが新たに加わりました。今後も日米で協力し、高速中性子体系での鉛の核反応断面積を評価するためのデータ拡充を進めていきます。

本研究は、米国ロスアラモス国立研究所のチームとの共同研究、加速器駆動システムのための日米共同炉物理実験で得られた成果の一部です。

(大泉 昭人)