6-1 代表不純物を利用した全炉心燃焼特性評価法の開発

−安価な黒鉛材料利用により高温ガス炉の燃料コスト削減に貢献−

図6-2 GTHTR300の炉心の水平断面図(左図)及び鳥瞰図(右図)

図6-2 GTHTR300の炉心の水平断面図(左図)及び鳥瞰図(右図)

GTHTR300(熱出力600 MW、サイクル長730日、燃料領域の高さ8 m(1 m×8段)、燃料領域外径5.5 m)は、原子力機構が設計を行った商用高温ガス炉です。本炉心に対して安価な黒鉛材料を利用した場合の燃焼特性に関する検討を行いました。

 

図6-3 燃料及び反射体ブロック内の不純物の燃焼特性

図6-3 燃料及び反射体ブロック内の不純物の燃焼特性

不純物の核種と中性子との反応を考慮し、反応度価値を保存するように天然ホウ素重量に換算したものをホウ素当量と呼びます。縦軸は、炉内滞在期間0日目のホウ素当量を基準に規格化しています。破線は不純物を天然ホウ素で代表させた場合の燃焼特性、実線は不純物を直接燃焼させた場合の燃焼特性を表します。両者は良い一致を示しています。

 


高温ガス炉では、黒鉛中のホウ素や鉄などの不純物による臨界性への影響が無視できません。このため、高温工学試験研究炉(HTTR)では、これらの不純物が臨界性に及ぼす影響をできる限り排除するため、燃料領域に高純度黒鉛であるIG-110製黒鉛ブロックを用いた設計が採用されています。これに対して、高温ガス炉ガスタービン発電システム(GTHTR300)では、経済性の観点から、初期の設計段階からIG-110に比べて純度の低いIG-11製黒鉛ブロックのみを用いた設計が検討されましたが、臨界性の観点からIG-11のみでは炉心が成立せず、IG-110も併用する必要があると考えられていました(図6-2)。しかし、実用炉導入にあたっては、経済性が求められるため、安価なIG-11製黒鉛ブロックのみで炉心を成立させることができれば、より魅力的な提案ができます。これには、従来のGTHTR300の設計と比べて、IG-11製黒鉛ブロックのみの炉心でも、運転期間中の燃焼において十分な臨界性が得られることを示す必要があります。そこで、従来の設計方法では考慮されていなかった黒鉛中の不純物の燃焼に着目しました。着目したのは、「毒作用の強い不純物核種は吸収断面積が大きいため、燃焼により早期に減少する」という点です。つまり、不純物が運転初期に燃え尽きることが確認できれば、以後の臨界性に影響を与えなくなるため、運転日数への影響が無視できるはずです。

しかし、このような計算を行うには、数多くの不純物核種の燃焼を同時に取り扱う全炉心燃焼計算を実施する必要があり、簡単に計算することはできません。このため、まずは核種崩壊生成計算コードであるORIGENコードを用いて、GTHTR300の設計を対象とした不純物の燃焼特性を評価しました。この結果、不純物の燃焼は、天然ホウ素のみの燃焼で模擬できることが分かりました(図6-3)。この結果をもとにして、IG-11の不純物核種をホウ素当量に換算し、モンテカルロ法に基づく炉心燃焼解析コードMVP-BURNを用いて全炉心燃焼計算を実施しました。この結果、IG-11製黒鉛ブロックのみを用いて不純物の燃焼を考慮した設計では、不純物の燃焼を考慮しない従来のGTHTR300の設計に比べて、かえって1 割程度の運転日数の増加が確認できました。従来の設計では、前述のような考慮が計算できなかったことにより、不純物が燃焼末期においても残存するとして計算されたため、このような逆転現象が生じたものと考えられます。

これらの結果から、IG-11製黒鉛ブロックのみを用いた設計でも、運転サイクル末期までに不純物が燃焼するため、燃焼末期における臨界性の妨げにはならないということが明らかになりました。今後は、燃料ブロックのシャッフリングパターンの見直しなどによって、さらなる燃料の高燃焼度化を図り、より経済性に優れた実用炉を追及してまいります。

(沖田 将一朗)