図6-1 高温ガス炉の特長とHTTR熱利用試験計画(HTTR-GT/H2試験)
エネルギー資源に乏しい我が国では、海外からの化石資源の依存度を下げ、さらに地球温暖化問題解決に向けて二酸化炭素の排出量を低減するために、安全性の確保を大前提とした原子力エネルギーの利用を基本方針としています。
高温ガス炉は、ヘリウムガスタービンによる高効率発電、水素製造等の多様な産業利用に応えることができる原子炉です(図6-1)。2018年7月に閣議決定された第5次エネルギー基本計画の「第3節 技術開発の推進 2. 取り組むべき技術課題」では、「水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉など、安全性の高度化に貢献する技術開発を、海外市場の動向を見据えつつ国際協力の下で推進する」と記載され、高温ガス炉開発の重要性が示されています。
原子力機構では茨城県大洗町に我が国唯一の高温ガス炉である高温工学試験研究炉(HTTR)を有しています。HTTRは、国産技術により建設され、2004年に950 ℃の熱を取り出すことに世界で唯一成功、2010年に950 ℃で50日間の連続運転により、安定に高温核熱を供給できることを実証しました。また、安全性実証試験として、原子炉の冷却機能が喪失し、原子炉停止に失敗する異常事象を模擬した試験を実施した結果、原子炉出力がほぼゼロに低下して自然に静定し、安全な状態に維持されることを実証しました。
近年の動向としては、文部科学省の高温ガス炉技術研究開発作業部会の提言に基づいて設置された高温ガス炉産学官協議会において、高温ガス炉の実用化戦略、海外戦略等の検討が進められており、特に、ポーランドの高温ガス実験炉及び商用炉の導入に向けた協力方針、国内体制等が定められ、国際協力を活用した高温ガス炉開発の体制整備が進められています。この活動の狙いは、HTTRの設計、安全審査、建設、運転、メンテナンス、新規制基準に基づく安全評価等を通して培った世界最先端の我が国の高温ガス炉技術を海外に展開し、そこで実証した成果を国内での高温ガス炉の導入に反映することです。
現在、高温ガス炉技術の開発として、燃料コスト削減を目指した黒鉛材料の検討、国際協力を活用した超高燃焼度燃料の開発及び再生可能エネルギーの発電量変動を補完できるシステムの概念検討を進めています(トピックス6-1、6-2、6-3)。また、高温ガス炉の熱を利用して水素を製造するための熱化学法ISプロセスの研究として、耐食環境下で用いるセラミックス機器の強度評価法の開発、耐食金属材料開発のための腐食試験装置の開発及び安定した水素製造のためのヨウ化水素溶液移送ポンプ軸封システムの開発を進めています(トピックス6-4、6-5、6-6)。
HTTRについては、三次元実形状衝突解析により排気筒が原子炉建家に倒壊した際の影響を評価する手法を開発するとともに(トピックス6-7)、原子力規制庁の新規制基準に係る適合性確認においては、固有の安全性が認められ2020年6月3日に大規模な改造や耐震補強なしで原子炉設置変更許可を取得しました。これにより、HTTRの運転再開に向けた最終準備段階に進んでいます。