図6-6 再エネ発電量変動を経済的に補完できる高温ガス炉概念
図6-7 再エネ発電量補完運転時の高温ガス炉の過渡挙動
図6-8 高温ガス炉の電力調整機能の例
温室効果ガスの大幅削減が期待される太陽光や風力発電などの再生可能エネルギー(再エネ)の大量導入には、発電量が自然条件により大きく影響されるため、電力需給バランスを調整するための水力や火力発電が必須となっています。しかし、これまで主に電力需給バランス機能を担ってきた火力発電からは、大量の温室効果ガスが排出されますので、環境に悪影響を与えてしまいます。一方、在来の軽水炉では、出力変動に伴う機器への影響や発電効率の低下等が問題となるため、出力を変動させないベースロード電源としての利用に留まっていました。このため、高温ガス炉が経済的に再エネの発電量変動を補完しつつ、電力需給バランスを調整できる役割を担うことができれば、これまでの火力発電や軽水炉にない魅力的なシステムとして提供することができます。
この観点から、高温ガス炉の特徴を見直すと、冷却材であるヘリウムが相変化せず理想気体に近い特性があるため、冷却材総量(インベントリ)を調整することでガスタービンの電気出力を可変し、季節間や昼夜間に渡る周期の長い発電量変動を補完できる可能性があることに気付きました。また、高温ガス炉は、発電のみならず核発熱を利用した水素製造が可能であるため、原子炉出力を変えなくても原子炉と中間熱交換器のバイパス流量を調整することで、ガスタービンと水素製造施設への熱供給量の比率(熱電比)を調整することができます(図6-6)。さらに、高温ガス炉は黒鉛ブロックから成る炉心の大きな熱容量を利用することによって、原子炉出力が一定の条件でも冷却材インベントリを調整することによりガスタービンの発電量を秒・分単位の短周期で調整できる可能性があります(図6-6)。このように、高温ガス炉は柔軟な運転方法によって、熱と電力エネルギーの供給比率を自由に調整できる潜在的な能力を有しているものと考えられます。
このような概念の技術的成立性を検討するためには、前述の運転条件で原子炉がどのように振る舞うかについてシステム解析コード等で評価する必要があります。そこで、原子力機構で設計した実用高温ガス炉であるGTHTR300Cを対象に、高温ガス炉ガスタービン発電プラントの過渡挙動評価が可能となるよう改良したRELAP5を用いて解析しました。この結果、GTHTR300Cは新たに設備を追加することなく、原子炉出力や発電効率を一定に維持したまま、短時間の要求発電量の変化に応じてガスタービン発電量を調整できることが確認できました(図6-7)。
以上の結果から、高温ガス炉は、電力需給バランス機能の役割を担えることが明らかになり、二酸化炭素を排出しないゼロエミッション電力システムの構築に貢献できる可能性を示すことができました(図6-8)。
(佐藤 博之)