図6-4 高燃焼度用被覆燃料粒子の設計概要と中性子照射試験結果
図6-5 高速中性子照射量に伴うコンパクト照射寸法変化率
小型モジュラー炉として注目されている高温ガス炉を実用化するには、高温工学試験研究炉(HTTR)で使用されている燃料(燃焼度33 GWd/t)に比べ、より多くのウラン燃焼エネルギーを安全に取り出すことが望まれます。
高温ガス炉の被覆燃料粒子は、二酸化ウラン燃料を中心核とし、その周りに内側から低密度熱分解炭素のバッファ層、高密度熱分解炭素層、炭化ケイ素(SiC)層、高密度熱分解炭素層で構成されています。これら被覆層は、燃焼に伴い燃料核から放出される核分裂生成物(FP)ガスを閉じ込める役割を担っています。高燃焼度化によってFPガス放出が多くなると、従来のHTTR被覆燃料粒子では内側からのガス圧によって被覆層が破損してしまいます。そこで、235U濃縮度約10%の燃料核を小径化し、バッファ層とSiC層を肉厚化することでFPガス保持機能を向上させた高燃焼度用被覆燃料粒子を新たに開発し(図6-4)、高温ガス炉燃料メーカーである原子燃料工業株式会社の量産化技術にて製造しました。また、直径約1 mmの被覆燃料粒子を黒鉛粉末とフェノール樹脂から成るコンパクト母材とともに成型金型に流し込んで焼き固めて中空円柱形状の燃料コンパクトに成型しますが、この母材原料は海外からの輸入に頼っていたため国産化が課題でした。国内にも類似品はありましたが、これを用いるには照射特性の確認が必要です。そこで、今回の照射試験では、新たに国産のコンパクト母材原料を用いて照射試験用の燃料コンパクトを作りました。この照射試料を国際協力のもと、カザフスタン核物理研究所のWWR–K照射炉で100 GWd/t規模の中性子照射試験を行い、その照射健全性を確認しました。この結果、新しい国産のコンパクト母材原料を用いた燃料コンパクトの中性子照射に伴う寸法変化率は、従来原料と同等であることが分かりました(図6-5)。この照射による寸法変化は、燃料破損に関わる燃料棒の除熱性能に大きく影響することから、燃料の寿命を決める大切なパラメータを確認できたことになります。
以上の結果から、今回の照射試験によって、100 GWd/t規模の高燃焼度用被覆燃料粒子の照射健全性と国産コンパクト母材の適用性を同時に確認することができ、原子力機構が持つ燃料の設計能力と原子燃料工業株式会社が有する量産技術が世界のトップランナーであることも示すことができました。今後は、コンパクトの被覆燃料粒子充てん率の向上やSiC層内側に酸素ゲッターとなるZrC(炭化ジルコニウム)層を追加すること等により、さらなる燃料の高性能化に取り組んでまいります。
(佐々木 孔英)