8-1 原子力施設解体費用見積りコードの一般利用に向けて

−費用見積りコードの利用マニュアル整備−

表8-1 DECOSTによる費用見積りのための入力情報データシートと入力例

費用見積りに必要な入力情報は、人員単価、建屋解体などに係わる建屋情報、作業量を個別に評価する特殊機器情報及び全体的な作業量を計算するための廃棄物関連情報です。マニュアルでは、これらを取得する方法を解説し、情報を記録するための入力情報データシートを新たに作成しました。下表は、動力試験炉(JPDR)の情報の取得例です。JPDRは、原子力発電を我が国で初めて実施した施設であり、また原子炉施設の解体撤去が可能であることを実証した施設です。

図8-1 DECOSTによる費用見積りのための入力情報データシートと入力例

拡大図(259kB)

 


役割を終えた原子力施設では、廃止措置(設備の解体撤去、核燃料物質による汚染の除去など)を行います。その廃止措置の計画を立案する段階で、措置に係る費用を見積もる必要があります。そこで、私たちはこれまで、保有する多種多様な原子力施設に適用できるような評価コード(原子力施設廃止措置費用簡易評価コード、The Simplified Decommissioning Cost Estimation Code for Nuclear Facilities:DECOST)を2007年に開発し、機構内で運用をしてきました。これは施設の特徴や類似性、解体工法等を基に廃止措置費用を簡易に見積もることができる手法です。我が国では2017年の法律改正によって、全ての原子力事業者が自ら保有する全ての原子力施設に対し、施設の運転開始前から、廃止措置を実施するための方針(以下、廃止措置実施方針)の作成、公表を義務づけられました。この廃止措置実施方針にも、廃止措置に必要な費用の見積り結果を記載しなければなりません。そのため、私たち以外の原子力事業者が彼らの保有する様々な種類の原子力施設の解体費用をDECOSTの考え方を参考にして見積もることができるように、DECOSTで使用する全評価式と評価に必要な情報及びそれらの使用方法をまとめたマニュアルを作成し、公表しました(DECOSTのコード自体は一般公開に向けた検討を進めている段階です)。

DECOSTでは、施設の解体費用を見積もるためにまず評価対象施設の施設分類を選定し、解体費用の具体的な評価項目とそれらの項目に対応した評価式を選定します。次に費用計算に用いるデータ(以下、入力情報)を評価式に入力し、施設解体の費用を項目ごとに算出していきます。マニュアルでは、DECOST の概要、費用の見積り方法(見積りに用いる式の選定方法など)、見積りに必要な入力情報の入手・設定方法などを解説しました。原子力施設は、例えば試験研究用等原子炉やウラン取扱施設、MOX取扱施設、再処理施設など様々な目的の施設があります。そのため、DECOSTによる見積りにおいては、原子力施設を10種類に分類し、基本的な考え方は同じですが、各施設の特徴に合わせた見積りの式のセットを備えています。

このため、解体費用を見積もる対象施設がDECOSTにおける10種類の施設分類のどれに該当するかを利用者が容易に判断できるように、マニュアルではそれぞれの施設の特徴を解説するとともに、判断の参考となるように私たちが保有する施設を10種類の施設分類と対応付けました。また、施設分類を選択すると、その施設の解体費用を見積もるために必要な評価式の一式が選択できる表を作成しました。

利用者は、DECOSTの評価式を用いて解体費用を見積もる際に、最大42個の入力情報を準備しなければなりません。入力情報には、例えば管理区域延床面積、解体物の処分区分(放射性、非放射性など)及び種類(コンクリート、金属など)ごとの発生量などがあります。これらの取得した入力情報を記録するためのデータシートを新たに作成するとともに、入力情報取得の参考となるように、入力例として既に解体を終了しているJPDRに関する入力情報を示しました(表8-1)。

本マニュアルは2018年に公開し、私たち以外の原子力事業者の方々も廃止措置実施方針の作成に利用していただけるようにしました。少なくとも4者の原子力事業者がマニュアルを活用したことを明らかにしています。2019年1月に廃止措置実施方針を公表した際には、私たち自身も、保有するほぼ全ての原子力施設の廃止措置費用の見積りにDECOSTを利用しました。また、施設解体に関する近年の実績データを取り入れ、今後もDECOSTのさらなる改良を進めていきます。

(高橋 信雄)