図8-1 低レベル放射性廃棄物対策の概要
図8-2 地層処分システムの基本概念
図8-3 地層処分技術に関する研究開発の実施体制と成果の反映先
原子力施設の廃止措置及び廃棄物の処理処分に向けて
原子力機構は、保有する原子力施設の安全強化とバックエンド対策の着実な実施により研究開発機能の維持・発展を目指すため、原子力施設89施設を対象に、「施設の集約化・重点化」、「施設の安全確保」及び「バックエンド対策」を「三位一体」で整合性のある総合的な計画として具体化し、「施設中長期計画」(2017年4月1日策定、2020年4月1日改定)として取りまとめ、本計画に従って各施設の廃止措置を進めています。大型の廃止対象施設のうち、2018年3月28日に高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃止措置計画、同年6月13日に東海再処理施設の廃止措置計画が、原子力規制委員会の認可を受け、現在、ウラン濃縮原型プラントの廃止措置計画について審査対応を進めています。また、東海再処理施設の廃止措置については約70年を要することから、放射性廃棄物の処理・処分を含めた長期にわたる見通しと方針を示した「バックエンドロードマップ」(2018年12月26日策定)として取りまとめました。施設中長期計画に従い、廃止措置を計画的に進めていくためには、原子力施設の廃止措置及び廃止措置等で発生する放射性廃棄物の処理処分を安全かつ適切に実施することが重要であり、新たな技術や知見を導入し、廃止措置及び廃棄物の処理処分の安全性向上及びコスト削減を目指した技術の開発を推進していくことが必須となります。原子力機構では、安全で効率的な施設解体プロセス、発生する放射性廃棄物の最小化や安定化などの処理プロセス、放射能確認を含めた処分プロセスに関連する技術開発を総合的に行っています(図8-1)。また、低レベル放射性廃棄物の埋設処分事業については原子力機構の業務に伴い発生したものに加え、大学、民間等の研究施設等からの発生分も処分事業の対象として取り組んでいるところです。
今年度の当該分野の技術開発成果としては、原子力施設解体費用見積りコードの利用マニュアルの整備(トピックス8-1)、廃棄物中の放射能濃度評価方法の検討(トピックス8-2)、機械学習を用いた低線量放射線による生体影響評価(トピックス8-3)、様々な化学物質を含む放射性廃液の安全な処理技術の開発(トピックス8-4)があります。
地層処分の技術と信頼を支える基盤的な研究開発を推進
地層処分は、原子力発電に伴って発生する高レベル放射性廃棄物などを、何万年にもわたって人間の生活環境から隔離するための対策として、国際的にも共通した最も実現性の高いオプションです。今後の原子力政策の動向にかかわらず高レベル放射性廃棄物などは既に発生しており、その対策への負担は将来世代に先送りするわけにはいきません。現在の我が国の方針では、使用済燃料の再処理により発生する高レベル放射性廃液を、ガラス原料と混ぜ、高温で溶かし合わせてガラス固化体にします。これを、30〜50年程度冷却のために貯蔵した後、金属製のオーバーパックに封入した上で、地下300 m以深の安定な岩盤の中に、粘土を主成分とする緩衝材で包み込んで埋設します(図8-2)。原子力機構では、実施主体である原子力発電環境整備機構による処分事業と国による安全規制の両面を支える技術基盤を整備し、地層処分技術の信頼性を支える研究開発に取り組んでいます(図8-3)。
北海道幌延町の幌延深地層研究センターでは、深地層の研究施設において、堆積岩を対象とした研究開発を実施してきており、実際の地質環境における人工バリアの適用性確認などの三つの研究課題に取り組んでいます(トピックス8-5、8-6)。また、岐阜県土岐市の東濃地科学センター土岐地球年代学研究所においては、地質環境の長期安定性に関する研究を実施しています(トピックス8-7)。なお、同センターの瑞浪超深地層研究所では深地層の研究施設において、花崗岩を対象とした調査研究を実施してきましたが(トピックス8-8)、所期の目的を達成したことから令和元年度をもって研究開発を終了し、坑道の埋め戻しに着手しました。
茨城県東海村の核燃料サイクル工学研究所の研究施設では、人工バリアのシステム挙動や放射性核種の移動特性に関する実験データなどを基に、深地層の研究施設計画で得られる情報などを活用して、地層処分システムの設計や安全評価に必要な技術の開発を進めています(トピックス8-9、8-10)。
これらのような研究開発で得られた成果は、知識マネジメントシステムを用いた知識ベースとして体系的に管理・継承していくため、ウェブを活用したレポーティングシステム(CoolRep)として公開しています。
(CoolRep: https://kms1.jaea.go.jp/CoolRep/index.html)
再処理施設の廃止措置及び再処理技術の高度化を目指して
東海再処理施設は、現在、施設のリスク低減にかかわる取組みとして、地震・津波等に対する安全対策、高レベル放射性廃液のガラス固化処理を最優先に進めるとともに、ガラス固化技術の高度化を図るための技術開発を実施しています。高レベル放射性廃液のガラス固化にあたっては、廃液成分を把握するための分析技術もガラス固化を支える技術として重要となります。高レベル放射性廃液のような高線量の放射性試料は、遮へい付きグローブボックスやセル内で取り扱うため、その分析装置には、狭小空間に設置が可能な小型サイズであること、遠隔での操作性、メンテナンス性などの条件が求められます。このような条件を満たす分析装置として、マイクロメートルオーダーの微細流路の気泡内部に発生するプラズマによる発光を利用した分光分析法による放射性試料の元素分析技術の開発を進めています(トピックス8-11)。本技術は、現在、開発が進められている低放射性廃液のセメント固化処理プロセスへの適用、今後の本格的な廃止措置フェーズにおいては、系統除染や設備・機器の解体で生じる廃液の分析など、遠隔で行う放射性試料の新たな分析技術として期待されます。