8-5 地上から地下深部の亀裂のつながりを評価

−単孔ボーリング調査手法の構築−

図8-10 稚内層の亀裂を対象とした透水試験時の水圧変化(10本のボーリング孔における計32ヶ所の試験結果)

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図8-10 稚内層の亀裂を対象とした透水試験時の水圧変化(10本のボーリング孔における計32ヶ所の試験結果)

透水試験の中〜後半の時間帯で水圧の変化速度が一定若しくは小さくなる場合は亀裂の連結性が高く、大きくなる場合は連結性が低いことが示唆されます。(a)稚内層の浅部では前者の水圧挙動が、(b)深部では後者の水圧挙動が特徴的に認められます。

 

図8-11 地下水の水圧と水質のボーリング孔における深度分布

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図8-11 地下水の水圧と水質のボーリング孔における深度分布

稚内層の深部は、(a)淡水水頭が深度とともに変化することから、水を通しにくいことが示唆されます。さらに同深部は、(b)浅部との境界付近で表層水の混入が認められますが、大部分において化石海水が残っていることが確認できます(浅部と深部の境界は深度0 mと表記)。

 


地層処分においては、地下深部において、水を通しにくい地層領域を地上から効率的に検出することが重要になります。地層中には水を通す亀裂が局所的に存在しますが、それらの亀裂の連結性が低ければ、その地層は巨視的には水を通しにくいことになります。

これまで、地層中の亀裂の連結性を単孔のボーリング調査で把握することは困難とされてきましたが、私たちは地上からの調査の効率性を向上させるために、単孔のボーリング調査でも亀裂の連結性を効率的に評価できる方法論を新たに考案しました。同方法論ではまず、地層を力学的な計算に基づいて、亀裂が連結しやすい深度領域とそうでない深度領域に区分します(亀裂にかかる平均的な地圧を岩石の引張強度で除した値が2未満だと亀裂が連結しやすく、2以上だと連結しにくい)。次いで、これらの区分した各領域において亀裂を対象とした透水試験から得られる水圧挙動を解析することにより、各領域の亀裂の連結性を評価します。そして、その結果の妥当性を地下水の水圧分布や水質・年代の情報を用いて検証します。

上記の方法論を北海道北部の稚内層(数百万年前に海底に堆積した泥の地層)に適用した結果、同層は力学的な計算に基づき、亀裂が連結しやすい浅部領域と連結しにくい深部領域に区分することができ、浅部では亀裂の連結性が高く、深部では連結性が低いことを示唆する水圧挙動が透水試験で確認できます(図8-10)。したがって、深部は亀裂の連結性が低いことが推定されますが、この結果を水圧分布や水質・年代から検証すると、地層が水を通しにくいことを示唆する水圧分布や、地下水が滞留していることを示唆する化石海水が確認できることから(図8-11)、上記の推定は妥当であると判断できます。本方法論は他の地層でもその適用性が確認できており、地下深部において、水を通しにくい地層領域を単孔のボーリング調査で効率的に検出する際に役立つことが期待できます。

(石井 英一)