図8-8 STRADプロジェクトの体制(2020年現在)
図8-9 処理試験の様子
研究施設や医療機関をはじめとした放射性物質を取り扱う施設の廃止措置が今後増えていきます。当該施設において、処理方法の定まっていない廃液が発生、蓄積されていると予想されます。このような放射性廃液はホットセルやグローブボックスといった特殊な環境で使用・保管されるため、遠隔操作の作業性や施設の使用上の制限などを加味した方法によって処理を実施しなければなりません。
私たちは、このような溶液の処理に関する知見や経験を蓄積し、廃液の処理に資するため、高レベル放射性物質研究施設(Chemical Processing Facility:CPF)にて保管されている放射性廃液をモデルケースとして、処理技術の開発を行っています。これらの技術開発を、大学等を含めた複数機関との共同研究として、Systematic Treatments of RAdioactive liquid wastes for Decommissioning(STRAD)プロジェクトと名付けて実施し、海外との情報交換も積極的に行っています(図8-8)。
本プロジェクトで開発の対象とするのは、研究開発から発生した核燃料物質を含む放射性廃液のうち、安全性の観点から処理が難しいと考えられる液体です。その種類は多岐にわたり、各廃液に含有される化学物質に応じた適切な処理プロセスが必要となります。
主要な処理対象の一つは分析により発生した水相廃液です。分析廃液は数多くの反応性に富む試薬が分析のために添加されているのが特徴で、中でもアンモニウム塩が多く添加されている廃液の処理が課題となっています。硝酸アンモニウムなどの反応性の高い化合物が生成・蓄積すると火災・爆発の原因となり得るため、廃液中のアンモニウムイオンを分解する技術を開発しました(図8-9(a))。これにより塩化コバルト溶液を触媒としてオゾンガスにより酸化することで、常圧で60 ℃という温和な条件でアンモニウムイオンを分解することに成功しました。当該技術は、一般産業界で用いられている高温・高圧下での分解手法に比べて安全な技術であり、他の窒素化合物の分解にも幅広く応用が期待されます。その他にも、使用済溶媒に残留したウランやプルトニウムを回収するための吸着材の開発など、幅広い技術を開発し、CPFで保管されてきた廃液を用いて処理性能の実証を行っています。またリン酸や乳酸はホットセル内で処理を行い、安全に固化や分解をすることができました(図8-9(b))。CPFの廃液の処理は2022年度末に完了する予定ですが、今後海外を含めた他の実験施設等における放射性廃液処理に関する需要も調査し、さらにプロジェクトを展開していく予定です。
本プロジェクトは大学等との複数の共同研究(「放射性保管溶液の安定化処理に向けたアンモニウムイオンの分離・分解に関する研究」等)によって推進しています。
(渡部 創、粟飯原 はるか)