8-10 地下環境での鉄とケイ素の相互作用メカニズムを解明する

−還元環境下における二価鉄ケイ酸塩共沈生成物の特性の把握−

図8-22 Fe(II)とSiの反応試料の固相特性と溶液化学

図8-22 Fe(II)とSiの反応試料の固相特性と溶液化学

(a)は共沈生成物の典型的なX線回折分析結果で、二つのブロードなピークは非晶質で乱層構造の粘土鉱物の生成を示唆しています。(b)は熱力学計算との比較から全ての試験条件でFe(II)粘土鉱物であるグリーナライトの生成を示唆しています。

 

図8-23 共沈生成物のEXAFS分析による局所構造解析結果

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図8-23 共沈生成物のEXAFS分析による局所構造解析結果

(a)はFeのK吸収端のEXAFSフーリエ変換の結果で、そのフィッティングから原子間距離と配位数が評価されます。(b)はウェーブレット変換によるFeとSiの空間分布解析の結果です。(c)はEXAFS解析結果から導出されたFe(II)粘土鉱物の構造を示しています。

 


放射性廃棄物の地層処分システムにおいて、二価鉄(Fe(II))とケイ素(Si)の相互作用は、還元環境下のガラス固化体、鉄製オーバーパックの界面で生じる重要な反応の一つです。その相互作用で生じるFe(II)ケイ酸固相は、ガラス固化体の溶解挙動に影響を及ぼすとともに、ガラス固化体からの放射性核種の放出や、拡散及び化学バリアとして寄与する可能性が考えられます。このようなFe(II)ケイ酸固相の役割を理解することは、地層処分の長期の安全評価において重要となります。このためには、Fe(II)ケイ酸析出物の種類と構造、それらを決定付ける因子についての基礎的な理解が必要となります。

本研究では、Fe(II)ケイ酸固相の生成実験を、低温度(25 ℃)・無酸素の還元条件下において行いました。実験では、SiとFe(II)の初期濃度比、pHの溶液条件を変動させ、これら条件がFe(II)ケイ酸の共沈析出物の構造特性に及ぼす影響を把握しました。オーバーパックとガラス固化体から供給されるFe(II)とSiの濃度比が異なる条件で得られた析出物を、X線回折法(XRD)、赤外分光法(IR)及び広域X線吸収微細構造分析(EXAFS)によって分析しました。これらの分析によって、析出物中の複数固相の共存状況、ケイ酸の構造、Fe(II)の局所構造の情報を取得し、これらの構造情報と熱力学計算結果とを比較しました。

これらの結果は、Fe(II)とSiの相互作用が非晶質あるいは低結晶性のFe(II)ケイ酸固相が短時間で形成されることを示しています(図8-22(a))。熱力学計算からはFe(II)粘土鉱物であるグリーナライト(Fe3Si2O5 (OH)4)が析出することが推定されました(図8-22(b))。この推定は、全ての条件でFe(II)粘土鉱物の構造を示唆したIR及びEXAFS分析結果(図8-23)からも支持されました。しかしながら、析出物中の固相の構造や共存状態は、pHやFe(II)/Si濃度比によって大きく異なる結果となりました。Fe(II)粘土鉱物の生成は低Si濃度と高pHの条件で最大となり、高Si濃度と低pHの条件では、Fe(II)粘土鉱物の結晶性が低下し、非晶質ケイ酸の析出が促進される結果となりました。

これらの結果は、地層処分の多重バリアシステムにおけるガラス/鉄の界面で生じる変質領域の状態変遷に対する知見を与えるものです。これらの知見によって、(1)ガラス変質研究で観察される変質鉱物の解釈、(2)ガラス変質時の二次鉱物生成を評価する際に必要な熱力学データの改良、及び(3)地層処分の安全評価における長期のガラス溶解や核種移行への影響評価など、より信頼性の高い安全評価が可能となります。

本研究は、経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業「平成29年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(処分システム評価確証技術開発)」の成果の一部です。

(Paul Clarence M. Francisco)