8-11 マイクロ流路内のプラズマで放射性試料を分析する

−液体電極プラズマ発光分光分析法による高レベル放射性廃液中のセシウムの定量−

図8-24 液体電極プラズマ発光分光分析法(LEP-OES)の原理

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図8-24 液体電極プラズマ発光分光分析法(LEP-OES)の原理

電圧印加に伴い気泡が発生し、これに電界がかかり液体電極プラズマ(LEP)が発生します。試料溶液中の元素がLEP中に入り込むと発光します。

 

図8-25 グローブボックス(GB)に設置したLEP-OES装置

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図8-25 グローブボックス(GB)に設置したLEP-OES装置

GB内には石英ガラス製の測定セルを設置し、LEPによる元素の発光は、光ファイバーを介してGB外の分光器、CCD検出器で測定しました。

 

図8-26 高レベル放射性廃液(HLW)のLEP発光スペクトル

図8-26 高レベル放射性廃液(HLW)のLEP発光スペクトル

黒線は硝酸で1万倍に希釈したHLW、赤線はブランクである硝酸の発光スペクトルです。852.1 nmに観測されたCsの発光線を用いて、HLW中のCs濃度を求めました。

 


使用済燃料の再処理によって生じる高レベル放射性廃液(HLW)中には、セシウム(Cs)、ストロンチウム(Sr)などの核分裂生成物、再処理工程で添加された試薬由来のナトリウム(Na)等が含まれています。HLW中の元素濃度は、HLWをガラス固化体として処理した後の固化体による放射性物質の保持性能に影響を及ぼすことから、正確に把握しておく必要があります。HLWを含む放射性試料は、作業者の被ばくを防止するため、気密性を有する遮へいセルやグローブボックス(GB)内で分析を行います。元素分析でよく用いられる誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)や誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)は、プラズマガス、冷却水、大容量電源等を要する装置であるため、遮へいセルやGB内への設置にあたっては専用GBの設計・製作、装置の大掛かりな改良工事が必要になります。また、遮へいセル内においては、遠隔操作によるメンテナンス性にも課題があります。

本研究では、このような課題を解決するため、マイクロ流路内で発生させる液体電極プラズマ(LEP)と、これに基づくLEP発光分光分析法(LEP-OES)に着目しました。LEPは、図8-24に示すように、流路幅約100 μmの狭小部を有する流路に溶液試料を導入し、パルス状の直流電圧を印加させて発生させます。LEPに試料中の元素が入り込むと原子固有の発光線が放出されます。この発光線を分光分析する方法はLEP-OESと呼ばれ、元素分析への適用が報告されています。LEP-OESでは、プラズマガス、冷却水、大容量電源が不要であることから、ICP-OES、ICP-MSと比べて装置が小型になり、汎用GB内へも容易に設置可能と考えられます。また、マイクロ流路内で試料を取り扱うため、放射性試料分析時に問題となる廃液発生量や作業者への被ばく量の低減も期待できます。

そこで本研究では放射性試料を測定するために最適化した機器を組み合わせ、図8-25に示すようにLEP-OES装置を設置しました。本装置を用いてCs標準溶液の発光スペクトルを測定した結果、852.1 nm、894.3 nmに発光線が得られました。最も高い強度を示した852.1 nmにおけるCsの検出限界値は0.005 mg/L、定量下限値は0.02 mg/Lであり、HLW中のCsを定量するにあたって十分な感度を有することが分かりました。また、HLWの元素組成を模擬した試料の発光スペクトルを測定した結果、当該波長域に共存成分による分光干渉は認められませんでした。そこで、東海再処理施設で発生したHLWをLEP-OESで測定しました(図8-26)。Cs濃度の測定値は3.61±0.47 g/Lであり、計算コードより求めた値3.60 g/Lと良好な一致を示しました。本法は、GB等内に設置する分析装置の小型化に有効であるとともに、HLW中のCs測定に適用可能であることが分かりました。

今後、HLW中のSr、Na等の元素分析、HLW以外の再処理工程試料にLEP-OESの適用が期待されます。

(小 典康)