7-5 燃焼するナトリウムミストで水素が着火する仕組みを探る

−過酷事故で生じた漏えいナトリウムのミストとともに噴き出た水素の着火過程を可視化−

図7-12 ライナ破損時の水素発生の様子と実験装置

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図7-12 ライナ破損時の水素発生の様子と実験装置

(a)過酷事故の際に部屋内のライナが破損すると、漏えいNaとコンクリートとの反応によって水素が発生します。この水素は空気雰囲気の部屋に噴き出して初めて燃焼すると考えられています。(b)実験装置の観測窓を介して水素燃焼の様子を詳細に観察しました。

 

図7-13 Naミスト及びNa混在水素の噴流火炎

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図7-13 Naミスト及びNa混在水素の噴流火炎

(a)鉛直上向きに噴出したNaミストのみの噴流火炎と比較し、(b)Na混在水素噴流は、Naミストの噴流火炎が生じた後に、新たな明るい火炎へと徐々に変化していきます。この違いに基づいて水素着火のメカニズムを明らかにしました。

 


ナトリウム(Na)冷却高速炉で使用されるNaは、酸素と反応して燃焼するほかに、水分と反応して水素ガスを発生させる性質があります。このため、Na漏えい事象が生じた場合も、部屋内のコンクリート中の水分と反応しないように、部屋の内面に鋼板(ライナ)を設置して安全性を確保しています。しかし、過酷な事故を想定した場合、ライナが破損することでNa-コンクリート反応が生じ、水素とNaのミスト(霧状の微小な飛沫)が生成されるため、これらが空気雰囲気の部屋に噴き出る際に、Naの燃焼とともに水素もバーナー状の火炎形状で燃焼することが考えられます(図7-12(a))。このNaミストを含んで噴き出た水素(Na混在水素噴流)の燃焼は、Na冷却高速炉特有の燃焼現象であり、空気雰囲気の部屋内で滞留・蓄積した水素による爆発的な燃焼とは異なる形態であるため、どのように着火するのかを明らかにする必要があります。

本研究では、高感度な高速度撮影手法にて水素ガスが着火する過程を可視化する燃焼実験を行いました。750 ℃に加熱された液体Naから発生したNa蒸気を不活性雰囲気中でミスト化(Na濃度約15 g/m3)させ、濃度を調節した水素ガス(水素濃度10%、温度260 ℃)と混合した後に、空気雰囲気室を想定した実験容器中(酸素濃度21%)へ噴出させました(図7-12(b))。比較のために水素を混合せずにNaミストのみを噴出した実験では、白黒画像の図7-13(a)に示すように、目視できないほどの小さなNaミストの燃焼による円錐状の火炎と、その火炎の周囲に飛散した粒子状の火炎とで構成されたNaの噴流火炎を形成することが分かりました。一方、Na混在水素噴流による実験では、Naの噴流火炎を形成した後、1秒以内の短い時間で、円錐状の火炎を覆うように、新たに明るい火炎が徐々に形成されていく過程を観測しました(図7-13(b))。水素を混合して初めて現れるこの明るい火炎は、水素が着火したことが原因であると考えることができます。

明るさが変化し始める時刻をt0として、この変化をより詳しく考察するために、画像に記録された発光強度に応じて色付けを行い、発光強度の空間分布を解析しました。Naの噴流火炎を構成する粒子状火炎は、Naミストが燃焼することで生じる強い発光点を中心にして、ほぼ同心円状の発光分布であることを示しています(図7-13(a))。一方、水素が着火した後の火炎は、強い発光点を中心にしてより拡がった発光分布であることが分かります(図7-13(b))。このような発光分布の違いから、Na混在水素噴流の着火は、着火したNaミスト(強い発光点)の周囲で、水素が局所的に着火する現象であることを確認できました。今後は、異なる酸素濃度に対する水素の着火条件を整理する予定です。

本研究は、文部科学省からの受託研究として福井大学が実施した「ナトリウム冷却高速炉における格納容器破損防止対策の有効性評価技術の開発」の成果の一部です。原子力機構は再委託を受けて実施しています。

(土井 大輔)